「一緒にご飯を食べる相手」恋妻家宮本 フリントさんの映画レビュー(感想・評価)
一緒にご飯を食べる相手
熟年離婚の危機を回避するためあれこれ悩む話
「家政婦のミタ」などで一世を風靡した遊川監督の映画デビュー作。残念ながら自分はドラマを一切見ないのでどの程度凄いのか全く分からないのだが、なんか面白くて有名なんだよね程度の認識。
コメディーで熟年離婚の話と言えば「家族はつらいよ」が頭に浮かぶ。話が被ってしまうかと心配したが、本作は夫婦間の問題を二人で解決するし、主人公の生徒の問題などもあるで丸被りではなかった。
主人公の阿部寛が優柔不断でなんともイライラさせられる性格なのだが、話が進むにつれて自分を見つめなおし大きく成長する姿が心に響く。
振り返って見れば、ダメダメだったな、なんて思いながらも立派に家庭を作り子どもも結婚した。決してスカスカの人生ではない事、ただ生きてきただけではない事を再確認する。
そして決断と行動を行う。自分の人生にも少なからずそんな瞬間がくるだろうなと思った。
あるドキュメンタリー監督が「ドラマのない人なんて居ない」と言っていたのを思い出した。
妻の天海祐希はグイグイいく性格で、怖い所も優しい所もあるいいお母さんだった。
いまいち離婚届を書いた理由が呑み込めなかったが・・・
回想シーンや学校、生徒の家庭、料理教室、スケールはこじんまりとしていたが、一個人を取り巻く世界では十分すぎるほど詰め込んでいたように思う。
だが決して無駄がなく、上手く主人公の性格、立ち位置などを表現していた。何度も心の声が聞こえてきたので説明多可だと感じる人もいるかもしれないが、心の成長がテーマなのだからこの仕様もいいのではないだろうか。
生徒の家庭問題を解決するエピソードはなんとも重い設定だが、これもコミカルに表現していて、あまり鬱展開ではなかったので良かった。
ムードメーカーのドン、おせっかいメイミー、クラスに一人はいたよねって感じのキャラクター達。空元気でごまかす男子、大人びていて若干上から目線、小生意気な女子。大人の視点ならそれらもかわいいものだ。
物語は以外にも料理の力で解決していく流れなのだが、食は万国共通の言語だし胃袋を掴めば物事はいい方向に進む!いいまとめ方だし自分としては納得できた。
劇中、くどいほどの料理説明があるので正直、料理映画かよとツッコミたくなったが、ラストへの持って行き方含め王道でいい感じだ。
映画「シェフ 三ツ星フードレストラン始めました」のセリフで「うまい食事といい音楽があれば、それだけで人生は幸せだ」的なことをいっている。美味しい食事が心と体を癒し、前へ進む力をくれるのだなと思った。
主人公と妻はお互い長い間夫婦として接してきたが、まだまだ心の内は理解し合えていない、でも心を開ける信頼関係が培われていたのは確実だしお互い必要としい理解しあおうとする姿は感動的だった。
エンディングはまさかのキャスト全員で歌う珍しい構成。ミュージカル調の長回しとカメラワーク、最近だと「ラ・ラ・ランド」の冒頭のシーンの縮小版的な演出もなかなか面白かった。
両作品に接点はないと思うけども。
鑑賞前は期待していなかったし、若干斜に構えて見ていたが、鑑賞中はいつも間にか姿勢を正していた。
絶対見たほうがいいとは言えないし、最高だなんて事はないけど、意外な良作として記憶に残そうと思う。
劇中セリフより
「これからも君の作った味噌汁が飲みたい」
一日頑張るための燃料、愛こそ最高の調味料
ごはんは美味しく楽しく食べたいものです。