「蛙の歌をきくがよい」ミュージアム 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
蛙の歌をきくがよい
手遅れかも知れないが、未鑑賞の方、本作の
予告編は絶対観ない方が良いです(TVCM含めて)。
あと、出演者の情報もシャットアウトした方がベター。
サプライズを3割くらい削ぎ落とされる羽目になります。
猟奇サスペンス映画に観客が抱く一般的な期待は、
どんな不気味な事件が起きるんだろう? 誰が犯人で、
誰が犠牲になるのだろう?といった点だと思う。
だがこの映画の予告編は、犯行内容を文章と
映像でバラし、ご丁寧にターゲット以外の誰が
危険に晒されるかまでをも明かしてくれる。
さらに予告編以外でも、公式プロモで「カエル男は
◯◯◯◯!」と明かす始末。これでサプライズ台無し
なシーンが幾つかあった(声で分かるよやっぱ)。
公開初週の増益を狙ったプロモなんだろうけどさ、
そういうネタバレはせめて公開後にしてよ……。
誰だよ宣伝担当は……『ネタばらしの刑』でお前を
バラしてやろうか……。(←誰かお巡りさん呼んで)
いやまあ自分もレビューに内容書き過ぎて注意されたこと
あるし、他人のこと言えないか……気を付けます……。
* * *
本編以外のところを細々と申し訳ない。
本編自体はね、自分は楽しめました。監督の
前作がイマイチだったので不安だったのだけど、
ずっと良かった。観て損ナシの3.5判定。
ネタバレ無しなら3.75~4.0位だったかも。
雨の日だけに現れ、ターゲットの私生活に倣った
方法で残虐な私刑を加える猟奇殺人鬼“カエル男”と、
それを追う刑事の死闘を描いたサスペンス作。
映画前半で次々に起こる凄惨な事件はまさしく日本版
『セブン』とでも呼べそうな異常で血生臭い犯行ばかり。
まあ『セブン』自体はもう20年前の映画なので
コピーキャット(模倣)はにゃんさかいるけれど、
それでも第1、2の事件はかなりエグいし、終盤
にも気分悪くなりそうなショッキングシーンあり。
展開が早いお陰でかえって陰惨さは軽減されている
印象もあるが、これは猟奇サスペンスとしては残念、
広範な意味でのエンタメとしては正解なので痛し痒しか。
小栗旬のざりざりした存在感は野犬のように
泥臭く事件を追う刑事役にハマっているし、
カエル男に扮した○○○○の怪演は誰だか見分けが
つかないほどだしネチネチと嫌らしく憎たらしい。
* * *
不満点。
犯人の犯行目的や正体が徐々に明らかになっていく
序盤~中盤まではスピーディで派手なシーンも多いし
犯人像が浮き彫りになっていくサスペンスもある。
だが終盤、小栗旬演じる主人公の刑事とカエル男との
直接対決となるパートはドラマの介入で明らかに失速。
センチメンタリズムに走って映画の勢いを
殺すのは邦画によく見られる悪いクセだと思う。
また、犯人像自体に全くリアリティが無い点も不満。
幼少期の出来事から犯行に至るまでの経緯が無いので、
物語のキャラとしてはアリだとしても、現実的な
恐怖までには至らない。ターゲットの身辺調査から
犯行方法までにディティールを持たせるなりして、
もっと身近な形の恐怖に落とし込んで欲しかった。
私刑や裁判員裁判を描き、人が人を裁くことの矛盾や
困難さを垣間見せてはくれるけど、単なるエンタメ系
サスペンスを越えて社会性を訴えるにはやや弱い。
2016年ならではのサスペンス、という要素が弱い。
そこが映画の印象を薄くしている一因という気がする。
* * *
とはいえ、
エンタメ性の強い猟奇サスペンスとして十分楽しめました。
ところで劇中でも言及されていたが、
(すべての事例に当てはまる訳ではないけれど)
いわゆるシリアルキラーの過去を洗うと幼少期に
精神的に大きな傷を負った人間が多いのだそうな。
それで殺人を正当化する気はさらさら無いけど、子どもは
やっぱり大事に育ててあげないと。ポリポリ要注意。
<2016.11.12鑑賞>