「地味ながらも骨太な銘品」スポットライト 世紀のスクープ HammondJ3さんの映画レビュー(感想・評価)
地味ながらも骨太な銘品
まず、ボストン・グローブの記者たちとボストンという街そのものの活気が本作の屋台骨になっていると思います。神父たちによる児童性虐待という重いテーマを掲げながらも、最初から最後まで躍動的なエネルギーがこの作品には溢れています。
想像するに、実際の記者たちの取材活動は、それこそ地味で心が蝕まれていくような道のりだったに違いありません。
この映画は、被害者たちの心情を描くでもなく、神父たちの罪を裁くでもなく、記者たちのガッツを賞賛するものでもありません。ハッピーエンドが待っているわけでもありません。
終盤にゆくにつれ、我々はなぜ目の前の問題から目を逸らし続けるのか、という問いかけがのしかかってきます。教会の問題を浮かび上がらせるだけでなく、記者たち自身がこの教会の暗部に背を向けてきたという、もう一つの事実が明らかにされます。
苦いドラマではありますが、その分深みが生まれていて良かったと思います。
とはいえ、記者たちの活躍は目を見張るものがあり、映画とはいえ彼らに畏敬の念を払いたくなります。
何度も事件の当事者の元へ足を運び、信頼関係を築きながら真実が解明されていく場面は、まさにジャーナリストの本領を見ているようでした。
今で言えば、パナマ文書問題が明るみに出たのも世界のジャーナリストのおかげなのかなとも思いました。
事件柄、たくさんの人物が複雑に登場してくるので、追うのが大変でしたが、徐々に増えていく被害者、加害者の数字がこの事件の深刻さを物語っていて、この辺の脚色は上手いな、と感じました。
記者たちを演じた俳優陣の熱演は見事でした。
昨年の「バードマン」と比べれば地味な印象の今作ですが、(MMFRが獲れなくて悔しいけど)オスカー作品賞も納得のいく、本当に骨太な作品でした。