「コメディの裏にある「大人の取捨選択」。」ナイト・ビフォア 俺たちのメリーハングオーバー すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
コメディの裏にある「大人の取捨選択」。
◯作品全体
7割くらいはクリスマスコメディ映画なんだけど、個人的に刺さったのは3割くらいの力感で描かれる「大人の取捨選択」。
30代を過ぎた登場人物たちは今まで持っていた大事なものと、今目の前にあるものを天秤にかけている状況だ。友情と新しい家族。友情と名声。若いころなら両方を抱えていられる余力やバイタリティがあったけど、30代ではそうはいかない。作中でも言っていたけど、たまにしか合わない旧友じゃ尚更関係が難しかったりする。周りの環境や価値観もズレていくし、なにより共通の話題が少なくなっていく。そんな中で無理して関係性を保つのなら、ある程度切り離したほうが良い…そういう、今までの友情の形を捨てる意図が、弁護士のアイザックとアメフト選手のクリスから見え隠れする物語の始まりだ。
3人がバラバラに行動する一方で、3人とも大人になりきれてないという共通点は「大人の取捨選択」というスマートさと裏腹になっていた。アイザックはラリって暴れまわり、クリスは取り返すことに固執し、イーサンは距離感も考えずに公開プロポーズをしている。大人になった姿の裏に、まだ捨てきれないものがある。この二律背反な感情は一見くだらないようにみえて当の本人はすごく真剣に悩んでいるのが、等身大の30代の姿として心に刺さった。周りから見れば「立派な大人」なんだけど、今だ10代20代の感性を失っていない…と思いたい30代のみっともなさ。時に馬鹿馬鹿しく、時に哀愁を漂わせて描いているところが面白い。
3人の友情が結束した「失う辛さ」。イーサンの失恋という再びの「失う辛さ」に直面したことで、一度は捨てかけた友情を拾い直すラスト。これがまた良い。普通ならばそのまま捨ててしまう旧友との関係だが、失う辛さを共有しているからこそ再び集まることができる。ビジネスライクな「大人の取捨選択」では選べない、心に残した友情の選択だった。
本来であれば難しい取捨選択を、サンタクロースの力を使って大団円としているところもまた良い。暖かく緩いハッピーエンドが、冷たく厳しい12月の寒さによく沁みる。
〇カメラワークとか
・ちょっとカット割りが早すぎる。コメディと物語をテンポよく見せたいのはわかるけど、序盤のカラオケルームでのイーサンとヒロインのシーンとか、ゆっくり見たい場面も飛ばされて行ってしまった。
・アイザックが教会で吐くシーンの神々しい入射光とシンプルな画面がとても面白かった。
〇その他
・クリスマス映画特有のホームアローンパロディが好き。ラストの叫びとか、スリの女が逃げる時にミニカー撒いてたのが面白かった。