「本作にある反戦メッセージは人類普遍のものです しかし本作には戦前の日本がなぜ無謀であっても戦争を起こしたのか 遺書にして残そうとした点で唯一無二の映画のように思います」陸軍 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
本作にある反戦メッセージは人類普遍のものです しかし本作には戦前の日本がなぜ無謀であっても戦争を起こしたのか 遺書にして残そうとした点で唯一無二の映画のように思います
昭和19年、1944年12月7日の公開
つまり戦争中です
それもいよいよ末期に突入する頃の
サイパン陥落は同年7月9日でした
8月には米軍はマリアナ諸島の占領を完了し、11月には超大型爆撃機B-29が発進できる滑走路も完成させていたのです
それまでとは次元の違う大規模な本土空襲が始まろうとしていました
3月10日の東京大空襲まで、あと4ヵ月のタイミングです
主な舞台となる小倉への空襲は、それよりも早く本作公開の年の6月に日本最大を誇った小倉陸軍造兵廠が爆撃され死者80名以上を出す損害を受けていました
つまり本作が公開されたとき観客はみな、その事実を知っているのです
冒頭に「陸軍省後援 情報局國民映画」とでます
つまり戦意高揚を目的に作られた映画です
なのに本作は明らかに反戦映画なのです
外見は間違いなく戦意高揚映画です
しかし反戦の思いが胸に届くのです
これから何が起こるのか?
どうなってしまうのか?
監督もスタッフも役者も予感しているのです
観客すら分かっていたのだとおもいます
そして検閲する陸軍すらも
何故こうなってしまったのか
世界を敵に回すような無謀な戦争に突入してしまったのか
それの理由を幕末の奇兵隊の小倉城攻め、いや水戸光圀の大日本史まで遡って説明しようとするのです
まるで遺書のようです
日本陸軍は奇兵隊を源流として、攘夷を行う組織であると説明しているように自分には思えました
攘夷が敗れ去ったときどうなるのか
その覚悟をもて、その死に向かう美学を共有しろということが、本作で陸軍の目的とするメッセージだったのでしょう
しかし、それは反戦メッセージと紙一重の差のように見えるのです
ウクライナの戦争に動員される、ロシアの青年達
余りに戦死者が多すぎて、中高年まで動員を始めているそうです
ロシアのどこかの地方都市で、本作と同じような光景があるのだろうと思いました
戦争は日本人だけが起こすものではありません
どこの国でも、かって平和勢力と呼ばれた共産主義国でも起こすのです
だから本作にある反戦メッセージは人類普遍のものです
しかし本作には戦前の日本がなぜ無謀であっても戦争を起こしたのか
遺書にして残そうとした点で唯一無二の映画のように思います
ロシアにだって戦争をおこした張本人には理由があるのでしょう
それを大真面目に信じているのでしょう
本作に登場する戦前の日本人のように
私達は幸いにしてそこから目が覚めて、そのように戦争を相対的に見ることが出来るようになったのです
明らかに進歩したのだと思います
ロシアの人々も負けて初めて目が覚めるのかも知れません
田中絹代のクライマックスでの演技は語り草の名シーンです
木下恵介の映画では必見の映画だと思います