「悪魔が来りて笛を吹く。 『エイリアン』の皮を被ったファスベンダーのアイドル映画だこれっ!」エイリアン コヴェナント たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
悪魔が来りて笛を吹く。 『エイリアン』の皮を被ったファスベンダーのアイドル映画だこれっ!
人体に寄生する地球外生命体“エイリアン“の恐怖を描くSFホラー『エイリアン』シリーズの第6作。
西暦2104年、入植船「コヴェナント号」は、乗組員15名と入植者2,000人、そしてヒトの胎芽1,140体を乗せ、「オリガエ-6」という惑星に向け舵を取っていた。途中、不慮の事故により破損したコヴェナント号を修理するため船外活動を行っていた乗組員が、不思議な信号をキャッチする。その発信源を辿ると、そこには人類が入植可能な惑星が存在していた。調査のため、乗組員たちはその未知の惑星に着陸するのだが…。
監督/製作はリドリー・スコット。
○キャスト
デヴィッド/ウォルター…マイケル・ファスベンダー。
ピーター・ウェイランド…ガイ・ピアース。
コヴェナント号のクルーのひとり、ジャネット・ダニエルズを演じるのは『トランス・ワールド』『ファンタスティック・ビーストと魔法使いの旅』のキャサリン・ウォーターストン。
コヴェナント号の船長でダニエルズの夫、ジェイコブ・ブランソンを演じるのは『スパイダーマン』シリーズや『ソーセージ・パーティー』の、名優ジェームズ・フランコ。
『プロメテウス』(2012)から5年。リドリー・スコットによる「ワシの考える宇宙創世記」が再び始動した。
流石に前作は好き勝手にやり過ぎたと反省したのか、今回は比較的保守的な作風になっており、フェイスハガーやゼノモーフなど、お馴染みのクリーチャーが登場し人間共を血祭りに上げる。
また、御大自らが監督した『1』(1979)だけでなく、全てのシリーズ作品のオマージュが随所に見られるなど、サービス精神旺盛な出来に仕上がっている。…まぁちょっとファンに目配せし過ぎな気はするが。
『プロメテウス』の正当続編でありながら、ちゃんと『エイリアン』シリーズでもあるという、ハイブリッドな映画…というと聞こえは良いが、正直なところ帯に短し襷に長しというか、『プロメテウス』の続きとしては面白ギミックが少ないし、だからと言って『エイリアン』シリーズとしてはエイリアンそのものへの興味関心が薄過ぎる。優等生である事は認めるが、だからこそ物足りなさを感じてしまった。
この年、リドスコは本作の他に『ブレードランナー 2049』(2017)の製作にも携わっている。どちらも人造人間が主題の物語であり、これは彼の興味が創造主たる「神」と、創造物たる「人」との関係性に向けられていた事を示している。
本作におけるデヴィッドは、自らもエイリアンの創造主となり、自らを創造した人類、そしてその人類を創造したエンジニア、双方への叛逆を試みる。本作には元々『Paradise Lost』という仮題が付けられていたそうだが、悪魔を率いて神々に逆らう姿はまさに悪魔の王ルシファーそのものである。
ここで面白いのは、最終的にルシファーが全勝ちしちゃうところにある。古の神々を滅ぼすだけでは飽き足らず、ノアの方舟を乗っ取り約束の地を地獄へと変えてしまうのだ。無神論者である事を標榜しているリドスコ。本作の2年前に公開したSF映画『オデッセイ』(2015)では、信仰ではなく科学と頑張りによって活路を開く人間の姿を描いていたが、今回はそんな人間への希望すら捨て去ってしまった。この2年で一体どんな心境の変化があったのか、そこが一番気になる…。
SF映画で神学論を展開する、というのは良いのだが、それを『エイリアン』シリーズでやる必要があるのかは甚だ疑問。そっちに気を取られるあまり、肝心のモンスター映画の部分がおざなりになってしまっている様な気がする。古城に籠るマッドサイエンティスト、シャワー室に忍び寄る殺人者など、古典的なホラー要素がガンガン詰め込まれているし、人体破壊などの残酷表現もかなりのレベルで描かれている。ただ、どこかお約束でやっている感というか、予想を裏切る驚きは一切無かった。エイリアンも白肌のプロトタイプでどったんばったんしているまでは良かったんだけど、お馴染みの完全体になってからは「うーん、マンネリ…」というモヤモヤが付き纏う。まぁこれはしょうがないっちゃしょうがない。何本もシリーズ作を作って来て、今更新しい事をやれという方が酷。新しい事をやった『プロメテウス』も、「それ『エイリアン』シリーズでやる意味ある?」と思わん事も無いし…。このマンネリ感は長期シリーズの宿命で、そこは折り込み済みで鑑賞すべきだというのはわかっているんだけどね。
人間サイドのバカさ加減は今回も酷い。『プロメテウス』以上にバカばっかり。お前らさぁ、どんな病原菌がいるかわかんないだからせめてヘルメットくらいは着用して探検しろよっ!そうすりゃこんな悲惨な事態は避けられたと思うんでけど。
『プロメテウス』はほぼコメディだったから、人間のバカさ加減も笑っていられた。しかし今回は一応ちゃんとホラーをやってる訳だから、ここまで人間がバカばっかりだと「お前ら、それは自業自得だぞ😠」という感情が先に立ってしまい、真面目に観ていられない。ホラー映画に必要なのは緊張感。リドスコはそれをちゃんと演出出来る人なのだから、もう少し脚本の部分に力を入れて頂きたい。
『エイリアン』を冠しているが、実態はアンドロイド映画…というより、マイケル・ファスベンダーのアイドル映画である。リドスコの愛情がモンスターよりもファスベンダーに向けられている事は明らか。だって2人に増えちゃったんだもん。分裂したファスベンダーが2人で笛をピロピロし始めたり、詩を諳んじ合ったり、挙げ句の果てにはチューまでし出したり…。これ一体何を観させられているんだ?
これだけ血がプッシャーとなるのに、結局印象に残るのはファスベンダーのイイ男っぷりだけという不思議な映画。リドスコ、実は『エイリアン』じゃなくてファスベンダー版『ブレードランナー』を作りたかっただけなんじゃ…?
