「いったい前日譚って、何部作なんだ?」エイリアン コヴェナント Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
いったい前日譚って、何部作なんだ?
"最悪だ、まだ繋がっていない・・・"。予告編もチラシも大袈裟である。映画紹介の"第一作に繋がっている"というのは嘘つきだ。
「プロメテウス」(2012)の続編としては、ちゃんとした作品になっているが、「エイリアン」(1979)には、まったく繋がっていない。
それどころかツッコミどころ満載になってしまった。時系列的には「プロメテウス」の20年後、「エイリアン」の10年前なのに、宇宙物理学的なつじつまは逆転してしまう。生物学的には今年公開された「ライフ」(2017)のほうが、イマドキの"正しいエイリアン"である。
しかし、やはり造形としてのクリーチャー"エイリアン"は、H.R.ギーガーの傑作芸術である。この"色気"ばかりは、科学的でなくても認めざるを得ない。
今回はH.R.ギーガーのオリジナル"成人エイリアン"(=ゼノモーフ)に対して、リドリー・スコットのデッサンから生まれた"ネオモーフ"が創造された。"卵形状"→"フェイスハガー"(顔に取りつくヤツ)→"チェストバスター"(寄生した人間から飛び出すヤツ)…と成長とともに新しい形状が出てくる。まるで「シン・ゴジラ」(2016)の第一形態~第四形態のようだ。
もうひとつの問題は、主人公がいないこと。主人公は誰だ? 副船長ダニエルズ役のキャサリン・ウォーターストンが活躍はするが、シリーズ過去作の"リプリー"(シガニー・ウィーバー)をリスペクトするあまり、"リプリー"に寄せすぎ。その割には、副官としての責任感や宇宙飛行士としての信念みたいなものがなく、パワフルさもなく軽い。人となりも掘り下げられていない。
一方で、「プロメテウス」の流れでいえば、主人公はマイケル・ファスベンダーということになるが、人類を否定する"アンドロイド思考"に共感する観客がどれほどいるものか。ファスベンダーが、"対・人類"のニヒルな悪役を演じると、どうしてもX-menの"エリック(マグニートー)"が見えてきてしまう。
というわけで、主人公はやっぱりエイリアンそのものなのか・・・。しかしそもそも「エイリアン」は怪獣映画ではなかったはずだ。だから、ますますモヤモヤしてくる。
ストーリー的には「プロメテウス」を観てからでないと、話が分からない部分があると思う。「コヴェナント」観賞前に予習しておいたほうがいい。「プロメテウス」は3D作品だったので、今回は2D作品とは根性がない。ここも繋がらない。
本作が評価できるのは、「プロメテウス」と違い、主人公エイリアンの姿がそこそこ観られること。またCG描画でごまかさず、手作りクリーチャーで"実存感"を提示していることだ。ヌメリ感やシズル感、この卑猥な表現こそがエイリアンなのである。
いったいリドリー・スコットは、"前日譚"をいくつ作る気だ? 20世紀フォックスは、"エイリアン・ユニバース"とかいって、さらに第一作までの10年の設定時間を埋めるべく、またまた話を突っ込んでくるに違いない…実は前日憚は3部作でしたと。
そんな文句をいいながらも、きっと新作は見てしまうんだろうなあ。
(2017/9/15 /ユナイテッドシネマ豊洲/シネスコ/字幕:松浦美奈)