「壮大、勇敢、 丁寧。」アリス・イン・ワンダーランド 時間の旅 ちろさんの映画レビュー(感想・評価)
壮大、勇敢、 丁寧。
胸の踊るような壮大なファンタジーの世界観の中で、現実の社会に巣食う諸々の見え難い問題に丁寧に向き合い優しく寄り添った最高の映画だった。まず、主人公のアリスが男尊女卑の社会に息苦しさに真っ向から立ち向かっている。そこが「人」として良い。女だからコルセットしろ結婚して親のために子供産めどうせ女は出世できない。そんな抑圧にユーモラスかつ知的に中指立ててやるアリスはかっこいい。
それから、赤の女王の哀しみと憎悪。彼女の理不尽な不幸が彼女の理不尽な人格につながっているのかもしれない。彼女は生まれた時から残酷なのではなく、化膿した心の傷からその残酷さが生まれた。そのストーリーが赤の女王という人物にたしかな肉を与えていた。また白の女王=下の子の狡猾さ、恵まれた側の傲慢な無知がさらりと描写されているのもいい。姉妹間の理不尽。たった一言、謝罪だけを求めていたのにこじれてしまった赤の女王の純粋さと、たった一言がどうしても言えなかった白の女王の卑しさが、まるで真逆のキャラ設定やビジュアルと絡み合うことで登場人物としての人間味にぐんと奥行きが出ている。
また、マッドハッターの狂気には赤の女王にも通ずる、愛されなかった、バカにされた、そして失った苦しみが根底にあることを示唆しうるストーリーも、非常に人間心理ををついていた。
時、の描き方も非常にいい。ここは特に映像の壮大さが素晴らしかった。黄昏時とも朝焼けともとれるような黄金の宇宙には生者。静かな夜には死者。機械の妖精たちが時を管理しているのも、時の区切りはそもそも人工なのだということを思い知らされる。ここでもやはり、「時」の傲岸不遜な態度が、実際に私たちが時に感じる残酷さや強引さを投影しているようだった。
ちなみに、映画内にはアリスが何かと追いかけっこするような描写が多々出てくる。それは、葛藤し、葛藤から学び取って戦うことをみずから選ぶアリスの生き方と似ていて、そこも映画全体の構造として面白かった。
あとEDのjust like fireめっちゃ好き。