「傲慢の裏にある底力。」ドクター・ストレンジ すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
傲慢の裏にある底力。
○作品全体
外科医であるストレンジは自他認める名医だ。その自尊心と確立した地位は冒頭のストレンジの仕草やまわりとの会話から伝わってくる。一方で、傲慢な振る舞いもある。ニックが患者の状態を見誤ってしまったときの言及の仕方、ドライブ中の姿がそれだった。
ただ、劇中でこの傲慢さは失敗しないために得たものとして描かれていて、ストレンジというキャラクターに奥行きを与えるものとして巧く描かれていた。そしてその傲慢という臆病を乗り越えて、ドルマムゥに打ち勝つ「延々と負け続ける時間」を作り出す…このストーリーが面白かった。
ストレンジの振る舞いが傲慢であればあるほど、負けたくないという気持ちの強さを感じさせる。そんなストレンジが傷を負って地位を事実上奪われ、敗北の痛みを十分に味わったはずなのに、それでも勝つために負けることをいとわない。エンシェント・ワンから「ひとのためにあれ」という忠言があったから、ドルマムゥ戦もその言葉に従ったようにも見えたけど、それ以上に自分自身の弱さの克服のようにも見えて、ストレンジの底力を感じるようなクライマックスだった。映像的な見栄えとしてはミラー次元での戦いのほうが派手だったけど、ストレンジの物語としてはこれで良い、と思えた。
○カメラワークとか
・エンシェント・ワンからの「ひとのためにあれ」の一言で背面に置いていたカメラを手前に持ってきて表情を写す。すっと動かすようなパンワークがかっこよかった。ストレンジが独りよがりの世界から抜け出して、ヒーローへの一歩を踏み出す瞬間。「ひとのため」という気持ち、ヒーローの資格を手に入れた瞬間というべきか。
○その他
・正直マーベル作品全体に言えることだけど、時間や死、現実世界を超えた世界や能力が出てくる割には現実的な空間が多いなあと思うのはよくばりすぎだろうか。ビル群が折りたたまれるとか、扉や柱がクルクル回るとか、ミラー次元の割には秩序がまだある感じがしてしまう。人の作るものだから当然…と言い切りたくないけど、そう思ってしまうよなあ。
・ドルマムゥ、古典的悪役感が強すぎて笑ってしまった。