劇場公開日 2017年1月27日

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「素晴らしい映像だが脚本には不満も」ドクター・ストレンジ アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5素晴らしい映像だが脚本には不満も

2017年1月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

楽しい

興奮

3D 吹き替え版を鑑賞。個人的にアメコミの映画化作品にはほとんど興味を持てないのだが,主演がベネディクト・カンバーバッチだというので見に行った。まず映像が物凄かった。冒頭のマーベルのロゴの見せ方からして感動ものだった。3D 版で見て正解だったように思うが,偏光グラスを使うので,若干画面が暗くなるのとピントが甘く感じられてしまうのが難点だと思った。映像の物凄さは,開始早々に全開になるので,最初から最後まで見飽きなかった。CG の進化の凄まじさを実感することができた。話は色々と文句があるが,この映像を見るだけでも映画館に出かける価値はあると思った。

スターウォーズとハリポタとバットマンビギンズとインセプションをごっちゃにしたような話であるが,脚本はかなり物足りなかった。まず,主人公の設定があまりに傲慢に過ぎ,映画の前半は全く同調できなかった。あんな乱暴な運転をしたら事故を起こすのは当たり前である。事故を起こしたことへの反省など全くなく,金をかけて手術を重ねれば回復するに違いないという思い込みもあまりに自分本位で,人間的な欠陥がこれでもかと描かれていた。これは後に回収されるのかと期待したのだが,必ずしも十分とは言えなかったため,かなり不満が残った。

スターウォーズのように,魔法の暗黒面というのが出て来て,裏切り者の弟子が力を付けて恩師に逆らうというのは,かなり二番煎じ感があったが,ラスボスとの戦闘とその結末にはあまりに意外性があって面白かった。ただ,いくら才能があると言っても僅か1年ほどの修行で,師匠でさえ手を焼く相手と対等に戦ってはダメではないかと思う。また,魔法の防具や武具に選ばれるという話も,何故選ばれたのかが全く謎だったし,さらに師匠の秘密という大風呂敷を広げておきながらその回収が全く不十分だと思わされた。また,魔法の範囲や限界といったものが全く説明されていなかったのが非常に不満であった。例えば,時間が戻せるというなら,どこまで戻せるのか,といったことである。

お笑いネタも結構散りばめられていたのだが,翻訳されてしまったので飛んでしまったネタもあったのが残念だった。ストレンジが名乗った時に相手が「それは奇妙だな」というやりとりなどがその典型である。笑いが起きないお笑いシーンほど間抜けなものはないので,もう少し工夫して欲しかった。

役者はカンバーバッチの他にはあまり印象に残る人はいなかった。これまでカンバーバッチはホームズやチューリングなど,頭脳を使う役が多かったが,この役は完全にアクション俳優と化していたのが印象的だった。考えてみれば,魔法使いなのに体を使って闘ってばかりいるというのも妙な話なのだが,呪文を唱えるだけであとは CG のエフェクトというのでは迫力が出なかったのだろう。吹き替えは「シャーロック」と同じ人だったが,カンバーバッチ本人の低い声を聞いてしまうと,かなり上ずって聞こえるのが難点だと思った。

音楽は「スター・トレック」や「ミッション・インポッシブル」などで知られるマイケル・ジアッチーノが実に素晴らしい音楽を付けていた。特に,戦闘シーンの迫力は,彼の音楽の力がなければ効果が半減したのではないかと思えるほどであった。

この監督はキアヌ・リーブスの主演した「地球が静止する日」を手がけた人であるが,あのしょーもない作品と同じ人かと思えるほどレベルが向上していた。中には 2001 年宇宙の旅へのオマージュを感じさせるシーンなどもあり,映画ファンには嬉しいサービスだと思った。どうやら本作はシリーズ化するつもりのようなので,今後が楽しみである。エンドクレジットの最後にそれを思わせるおまけ動画があるので,最後まで席を立たないようにお勧めする。
(映像5+脚本4+役者4+音楽5+演出4)×4= 88 点。

アラカン