「浮き彫りにされたモノとは」ロブスター 和音さんの映画レビュー(感想・評価)
浮き彫りにされたモノとは
監督のヨルゴス・ランティモスは難解な映画を撮る変人という印象があり、観るものを選ぶ傾向ですね。
個人的に『聖なる鹿殺し』で気に入ってしまい、こうして彼の作品をむさぼっている次第です。
難解っていう表現は意味が分からないという事ではなく(もちろん分からない)、観た人によって見解が異なったり、違うテーマを受け取ることになったりするという点で、同じものを観ているのに見えているものが違うという点が難解だと思わせます。
さて、ジャンルはSFですね。
近未来、子孫を残す事が重要視され、国家なのか世界なのか単位は不明ですが、離婚という事になれば、ある種の収容所に送られ、そこでペアリングを強要されます。
なぜ、強要なのかといえば、45日以内に恋人を作らなければ希望する動物に変えられてしまうという決まりになっているからです。
物語はそこに収容された変えられるとしたらロブスターになりたい男性は、収容所を脱走し、脱走した先で愛する者と結ばれるが、しかし…。みたいな流れ。
注目したいのは、結婚相談所みたいな主体性がないという点です。
社会が許さないから、結婚相手を見つけよう。動物になりたくないから結婚相手を見つけよう。結婚相手がいない人間は動物と同じだ。みたいな暴論(少なからず社会にはある論)がまず提示されているように思えます。
先進国は軒並み少子化への道をたどり、その先にはもしかしたらこんな未来があるのかもという暗示はまさにSFだろうと思います。
非常に突飛な設定ではあるもののポリティカルフィクションとして面白いですね。
注目するポイントとして、”共通項” 設定ではなく、こういった局地的に捻じ曲げた際に生じる波の中で浮いて出てきたものがとても分かりやすく示されます。
同じものを嗜好し、同じ事へ志向する、SNSやマッチングアプリなどで繋がるとそういった傾向が少なからずあるだろうと、それに対するアンチのようにも見えてきます。
また、登場人物たちのその後というかオチが全く描かれない点について、これら提示されたテーマに対してどうなったのかを想像させる事が表現する手段として使われています。
最後のシーンで、主人公はどう行動したのか。
そして、いくつものレビューで散見されるように、エンドクレジットでの波の音についてはどうなのか、それぞれ観た人に対して結果を想起させてきます。
ネタバレというか、個人的な解釈としては…
最後のカットの長回しで、彼女の目が見えているような演出になっていたのは気がかりでして、本当に見えなくなっていたのか? と考えてみたくもなる。
それも失明した日の帰り道で突然、失明させられたと分かるというのも少々妙だなって思ったのが始まりではあるもののそうなると…。