「日本で『キック・アス』狙っても…」ヒーローマニア 生活 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
日本で『キック・アス』狙っても…
とある寂れた商店街。夜になると不良やチンピラ、ふしだらギャルや礼儀知らずのオッサン共で治安が悪化。“なごみ商店街”の“な”の字が取れて“ごみ商店街”。
会社をリストラされ、コンビニでバイトをしている冴えない青年・中津。
チンピラに絡まれた時出会ったのが、ニート青年の土志田。下着泥棒でもあるが、ずば抜けた身体能力の持ち主。
たまたま二人でチンピラを撃退したのがきっかけ。
夜になると“若者通り魔”になる中年サラリーマンの日下、風変わりな女子高生・カオリも加わり、自警団を結成。
町人たちから“吊るし魔”(成敗した小悪党どもをパンツ姿で吊るす事から)と呼ばれるようになり、社会悪を懲らしめていく…。
原作コミックはあるようだが、日本版『キック・アス』を狙ったであろうコンセプト。
でなくとも日本では昔から『必殺仕事人』など法で裁けぬ悪に制裁を下す“ヒーロー”がお好き。
法的にどうなの…? ヒーローか、犯罪者か、偽善者か…?なんてのはこの際置いておこう。荒唐無稽であってもあくまでそういうエンタメなのだから。
普段は挙動不審。しかし、キレッキレのアクションを魅せる窪田正孝。
後半の色っぽいクール系もいいが、前半のお下げ・眼鏡・ジャージでもやっぱり可愛い小松菜奈。
ハンマー振り回しながらも、哀愁漂わせる片岡鶴太郎。
仲間の個性が強すぎて、主人公である筈の東出昌大が空気…。いや寧ろ、それでいいのだ。ヘタレっぷりの妙。
4人の珍演。
作風もコミカルで、テンポ良く。
仲間の和ややりがい、生きがいを見つけ、この時が一番幸せだった…。
日下の紹介でホームレスの宇野が参加した事から…。
宇野を社長とし、自警団を警備会社として立ち上げ。
中津と土志田は幹部、日下は専務、カオリは社長秘書に。
社員も増え、育成や町の治安に尽力するも、何か空虚さが募る…。
それは早かった。会社内で横行する不正や腐敗…。
疑問を抱き始めた中津は孤立。やがて危機に陥っていく…。
最初はこじんまりとして上手く行っていたものが、肥大化し組織ぐるみになると…。
風刺は効いている。
が、途端にシリアスにトーンダウン。
そもそもが荒唐無稽な題材や設定なのだから、そのまま突き抜けて欲しかった気もする。そこら辺、エンタメに徹した『キック・アス』の改めての巧さ。
別にコミカルからのシリアスも悪くはないが、それによって失速してしまうバランスの悪さが日本映画あるある。
にしても本作、良かった点もあればそうでない点もあり、何ともどっち付かずの“う~ん”な作品。
全体的な流れとしてはそう悪くはないのだ。が、所々躓く。
商店街の設定も活きていない。にしても何であんな無国籍無法地帯みたいなの…?
謎のレインコート魔。宇野の配下と思いきや…。
船越英一郎の怪演もさることながら、南キャン静ちゃんのインパクト。でもそもそも、何者だったの…?
日下の死をきっかけに中津は一人で会社と対する。すれ違っていた土志田とも和解。最後の最後にはカオリもセクシー助っ人。
だけど一度失速した作品のテンポを取り戻す事は出来なかった。
各々アクションは奮闘するが、絶望的なまでに豊島圭介監督にアクションのセンスが無い。これが阪元裕吾とかだったら…。
ラストシーン。再びバイト生活に戻るが、人は変わる。
日下のハンマーを受け継いだのは…。
これらオチはいい。
だけど見終わって素直に思った事。
何だったの、これ…?
エンタメ性も中途半端。
メッセージ性も中途半端。
何だか見ながら、キャストたちはどんな気持ちで撮影してたんだろう、と。
異色作と言えば聞こえはいいが、それは独特な作風の原作コミック(ネットで画像を拝見)だったらシュールで活きるのだろうが、実写だったらぎこちなさしかない。