「モデルとなった出光佐三すら滑稽に見える稚拙な演出。」海賊とよばれた男 さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
モデルとなった出光佐三すら滑稽に見える稚拙な演出。
小説は情景描写のリアルじゃない。
人物のリアルだ。
奥田英朗せんせ
『海賊と呼ばれた男』
2013年本屋大賞を受賞した、百田尚樹著「海賊と呼ばれた男」の映画化ですよ。
この作品って、出光石油創設者である、出光佐三がモデルのようです。主人公:岡田鐵造(岡田准一)は、北九州の門司で石炭の販売店を営んでいるが、石油の将来性を見抜いて商売を始めようとする。
が、国内の大手販売店や、海外のメジャー(大手企業)が立ちふさがる。
でもどんなに困難な状況であっても諦めず、独創的なアイデアでもって、柔軟且つ粘り強く前に進んで行く。
※年末観ました。
原作は未読です。百田せんせの、wikipediaとwikipediaを会話で繋げただけのNeverまとめ的な作品は、"永遠の0"と"モンスター"だけ読んでギブアップでした。
あ、映画"永遠の0"未見です。
でも本作を観たのは、石油の利権争いがメインの、ポリティカルな話だと思ったからです。
いやだなー。新年から、悪くばっかり言ってるなぁ。
ほんと、すみません!
百田せんせのファンの方、本当にすみません!
本作は戦時中で空爆を受ける東京からーの、戦後の初老の岡田鐵造と、若い頃の駆け出しの頃との記憶がスイッチバックする構成となっています。
岡田准一くんが、1人で20代~90代まで演じています。ええ、頑張ってると思います。ただ、演技が学芸会的で過剰なのは、いつもの山崎貴クオリティです。
"三丁目の夕日"ではギリ許される演出でも、ガチなええ話を目指す本作では、首筋がもぞもぞして堪りませんでした。
ラストの岡田くん、な、なんっすか(恥)!
私、映画を見て、恥ずかしさで顔を覆ったのは初めてです。
どうしようー?もう、突っ込めないシーンって、ほとんどないんですよ(笑)
まず、冒頭の焼夷弾が落ちるシーン。
B29から子爆弾が投下され、雲の間を落ちる過程で分解し、中のいくつもの焼夷弾が東京に降り注ぐ。燃えさかる東京の町!いやー、山崎貴クオリティやなー。
それを岡の上から見つめる、岡田鐵造。ドーン!
この冒頭で、嫌な予感。
山崎監督が「我々の特撮技術はさらに進化し続けています」と仰っていましたが、ほんと技術は進化しているでしょうが、ほんと、どの映画もVFXとかCGの悪いとこが全面に出てます!
あの-、自分の作品にはむしろマイナスだって、気付いて!
山崎監督にお願いしたいのは、情景のリアルさを追求するんじゃなく、人物のリアルさを追求して欲しいんですよ。
「人を描いて欲しいんです」
あとですね。何をテーマにしてるか?
鐵造が地元で新しいことやろうとすると、だいたい昔っからの慣習が邪魔をするんですね。きっちりとした法律がある訳ではないですが、"昔っからそうだから"っていう規制。
だけどその規制を時に舌先三寸で、時に力尽くで、時に正攻法で打破していくんです。
勿論"昔っからそうだったから"ってやってたとこは面白くないですよね?で、敵も多くなる。
規制は良くないっつー、百田せんせって-、TPP容認派なんでしょうね。分かります。
戦後に貿易が自由化されると、海外メジャーが入って来て日本の石油会社はやばくなる。鐵造は海外にも敵がいるから、石油を仕入れることができなくなる。
しかし、そこでめげない!独自の発想で、某国から直に仕入れることを決断するんですね。
それは、イランからです。
モデルとされた出光佐三は、昭和28年に自社船:日章丸で行ってますから凄いですよね。
でもね、このくだりもやばいんです。
乗組員には、出航後しばらく立つまで行き先が告げられません。
なぜなら途中、イギリス軍がうろうろしてる海上を通らなくちゃいけないから。
イランが石油を国有化するとなって、イギリスは利権を失ったんですよ。
なので当時「イランの石油を購入した船を、イギリスは許さないからな!」って苛々してたから。
逃げられない海の上で、告白。
うーん。
戦後、日本軍が隠していた石油は、雨水が流れ込み、妙なガスが発生して酷い状態。で、人足も逃げてしまうんですが、これを使いきらないと米国は石油やらん!っていうんですよね。
で、人足もいないし、どうすんだ!ってなると、鐵造は店員(社員って呼ばない)にやれって言うんですよ。
地下のタンクに降りて、バケツでくみ上げる。最終的には鐵造も、俺もやらせろ!いや、店主(社長って呼ばない)止めてください!やらせろ!ってじゃれにじゃれて、抱擁(笑)
もう、ブラックなルーキーズとしか言いようがないです(笑)
9割がた男しか出てこないし。
あれ?出光佐三って、本当にこんなギャンブル&ブラック臭しかしない人なの?と疑問に思って、木本正次著「小説出光佐三 ~燃える男の肖像~」を読んだんですね。
映画では独創的なアイデアで困難を打破していくギャンブラー鐵造ですが、小説ではかなり緻密な計算があります。
確かに店員に対して大変な仕事を任せますが、それは信頼している証であり、結果失敗しても学習である。
店主は全てを把握してる訳ではないので、何か決定する場合は現場に聞くじゃないか。
だったら、現場に判断させたらええ。早いじゃん!
それって、権限をトップに集中させない。現場に権限を与えて、何事も素早く対応させる。現代の、アメリカ軍なんかがやってることなんですよね。
現在はインターネットが普及して、情報拡散の速度が上がって、なかなかそれに企業が追いついてないという状態ですよね。日本企業は、縦割り組織なので。
しかし出光佐三の作り上げた組織っていうのは、寧ろ外資的な小回りがきく合理的な部分と、店員を絶対に解雇しないという、義理人情、古き良き日本企業の部分がマッチした、凄い企業だったんですよね。
だけど本作を見ると、まるでブラック・ワンマン企業のようですよ。
あとね、"小説出光佐三 ~燃える男の肖像~"と同じ心理描写&同じ台詞&シーンが散見されます。モデルなんだから、似てて当然ってレベルじゃないですよ(笑)
こんなこと言うと怒られるかな?
本が売れない時代なので、人気のある作家さんの力が業界で大きくなりすぎなんですよ。何でもかんでも、許しちゃダメだと思いますよ。マジで(怒)
あ、良いとこも書かなきゃ。
いい俳優さん達が、たくさん出てます。
でもやっぱ、吉岡秀隆さんの酔っ払いの演技は、神!
※ただ三丁目感がハンパないですけどね。