「侍の精神を大事にしている俳優が侍を演じきった」海賊とよばれた男 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
侍の精神を大事にしている俳優が侍を演じきった
上下巻累計で170万部を目前としたベストセラーとなった百田尚樹の同名原作を山崎貴監督が大ヒット作『永還の0』のスタッフ、キャストを再結集して映画化したものです。 主人公の国岡鐡造は、出光興産創業者の出光佐三がモデルに。国岡鐡造が独立したのちの半生と、出光興産をモデルにした国岡商店が大企業にまで成長する過程が描かれている作品です。
脚本も手掛けた山崎監督は、膨大な原作を凝縮して詰め込み、散漫さを感じさせないところはさすがです。但し、有名な日章丸事件(劇中は日承丸)については、日本人として世界に誇れる見せ場なので、アバダン港周辺だけでなく、イランの国中が日承丸の快挙に沸き返ったところをもっと描いて欲しかったです。
それでも全編を通じて、どんな逆境も「士魂商才」(武士の精神と商人としての抜け目ない才能とを併せもっていること。)の一念で跳ね返していく主人公の気骨のある骨の熱いドラマに圧倒されました。演じている岡田准一の気迫がヒシヒシと伝わってくるのです。
また、国岡と前妻ユキの悲しい別れも、短く断片的だけれど挿入されていて、ラストのワンシーンで涙に誘われました。国岡が仕事に打ち込む余りに、子宝に恵まれなかったことを気にしたユキは、自ら身を退くわけなんですね。この辺も、『ドラえもん』で「ドラ泣き」を誘発させた山崎監督の人間ドラマが巧みでした。
1945年。石油販売業の国岡商店本社は、廃墟と化した銀座で奇跡的に焼け残ったところから物語は始まります。
60歳を向かえていた国岡は、絶体絶命のピンチを向かえていました。石油配給統制会社に、戦前から反抗を繰り返してきた意趣返しで、戦後の輸入再開に向けた指定企業から閉め出されてしまったのです。それどころか、国内に残る石油もについても、意地でも回さないと石油配給統制会社の社長から告げられます。
近日中には、1000人もの海外拠点の社員が帰国してくるというのに、売るべき商品である「石油」がそもそもないという現実が国岡に襲いかかっていました。「店主、このままでは、国岡商店は潰れます。涙を呑んで人員整理を」という部下からの進言にも、「馘首はならん!」と解雇を断固拒否するのです。国岡は社員を家族のように大切にし、復興を信じて1人も解雇しようしなかったのでした。
終戦から生き残った店員を前に、国岡はこう訓示します。「愚痴をやめよ、愚痴は泣きごとである。亡国の声である」「日本には三千年の歴史がある。戦争に負けたからと言って、大国民の誇りを失ってはならない。すべてを失おうとも、日本人がいるかぎり、この国は必ずや再び立ち上がる日が来る」と熱く語るのでした。
戦後、住処も食糧事情もままならない情勢下で、日本の復興に向かって闘う男たちの物語が始まったのです。
国岡は回想します。思えば27歳の創業時も取引先が見つからず、倒産寸前でした。彼の人生は抵抗勢力との闘いの連続であり、いつも討ち死に覚悟の薄氷の歩む思いで切りぬけてきたのでした。
創業時の危機も、漁船に国内産でだぶついていた軽油を直販する当時としては斬新な手法で突破したのものです。当時の石油販売は、地域ごとの販売店による独占販売が認められていて、漁師たちは高い燃料代を余儀なくされていたのです。しかし海の上ならテリトリーはないだろうとしいうことで、国岡は船を駆り出して燃料を漁師に直接売りつける販売方法を展開したのでした。燃料販売店の顧客を海上で奪っていく国岡商店の神出鬼没さに、業界でつけられたあだ名が“海賊”だったのです。
その後国岡商店は海外進出し、急成長を遂げます。それに伴って海外メジャー石油資本との対立が激化していくのです。なかでも南満州鉄道に車軸油の納入成功までの経緯が描かれますが、そこでメジャーを屈服させたことが戦後の国岡商店に暗雲をもたらすと誰が思ったことでしょうか。
戦後石油配給の販売店指定を受けるまで、ラジオ修理などの副業でなんとか凌ぎきった国岡商店であったが、再び危機を迎えます。1953年。日系石油会社は次々とメジャーの支配下になっていったのかで、日本のエネルギー自給にこだわる国岡は、断固としてメジャーの軍門に降ることを拒否しました。この合併話にくだんの南満州鉄道での因縁が絡んでいたとは、メジャーの怨念悍ましや!
ところで国岡が掲げた信念は、今日の出光にちゃんと残っていました。先般の出光とエッソの合併発表において、創業家が断固反対したのも、本作を見れば頷けることでしょう。
メジャーの妨害に遭い、次々と石油供給元が断たれていくなかで、国岡は切り札として日本最大の大型タンカーの日承丸を建造します。油のあるところならどこでも買い付けに乗り付けて行くスタンスは、“海賊”としての面目躍如たるものがありました。しかし完全に供給を断たれて、国岡商店は再び倒産の危機に陥ります。追い詰められた国岡は、石油を国有化し英国と係争中のイランのアバダンから、石油を仕入れることを決意するのです。英国海軍に見つかれば拿捕されたり、轟沈すらも考えられる命懸けの航海に、部下たちは大反対!
しかし、船長以下日承丸クルーの命懸けのリスクをモノとせず、社歌をを歌い、鼓舞しあう意気軒昂さに感動しました。そこには、創業当時に船で燃料を売りさばいていた頃の、海賊と呼ばれていた国岡スピリッツが完全に伝承されていたのでした。
本作で、「石油のために戦争し。石油のために敗れた」日本の未来を見通していた国岡鐵造の男気と決断力は、きっと真のリーダーにふさわしい魅力を感じさせてくれて、大きな感動に包まれることでしょう。