劇場公開日 2016年1月30日

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ドリーム ホーム 99%を操る男たち : 映画評論・批評

2016年1月26日更新

2016年1月30日よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテほかにてロードショー

無慈悲なアメリカ資本主義システムがもたらす恐怖をとらえた社会派サスペンス

古き良きハリウッド・フィフティーズのスモール・タウンを舞台にしたホームドラマを見ていると、郊外に家をもつことが至上の価値としてあまねく共有されており、その一見、絵に描いたような多幸感こそが、ささやかな<アメリカの夢>の証しとして肯定されていることに気づく。本作は、そんな夢が根こそぎ奪われてしまうことの本源的な恐怖、そして、その果てに現出するおぞましくも荒涼たる心象風景を仮借ないタッチでとらえた社会派サスペンス映画といえよう。

本作では、リーマンショックを背景に、住宅ローンが払えず、家を差し押さえられたデニス・ナッシュ(アンドリュー・ガーフィールド)が、皮肉にも自らを路頭に迷わせた悪徳不動産ブローカー、リック・カーバー(マイケル・シャノン)に雇われ、今度は差し押さえる側に転じて、あけすけな成功神話を辿る軌跡が活写される。

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「アメリカは負け犬に手を差し伸べない。この欺瞞の国は、勝者の勝者による勝者のために国だ」というリックの長広舌が象徴するように、イランからの移民を両親に持つ監督ラミン・バーラニ、脚本のイラン映画の鬼才、アミール・ナデリは徹底して外部からのクールな視点で、無慈悲なアメリカ資本主義システムを苛烈に批判する。とりわけ手持ちカメラを多用したドキュメンタリー・タッチで、強制退去を命じられ、呆然自失する家族たちの姿を次々に映し出すシークエンスが痛ましい。

一方で、デニスは、彼らの犠牲を糧にして、ついにプール付きの豪邸を手に入れるも、そこには一緒に住むべき家族が不在という容赦ない現実にぶち当たる。困惑の表情を浮かべるアンドリュー・ガーフィールドが繊細な演技で魅せる。モラルのタガが外れた、さまざまな矛盾を抱えた酷薄なカリスマ権力者を陰影深く演じたマイケル・シャノンはさらに強く印象に残った。

高崎俊夫

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