「映画史上唯一無二の“123人一役”を通して伝えてくれる、外見か中身か」ビューティー・インサイド 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
映画史上唯一無二の“123人一役”を通して伝えてくれる、外見か中身か
翌朝目が覚めると記憶を失っていて…というのはラブストーリーでよくあるが、こちらはもっと驚き。
主人公のキム・ウジン。彼は翌朝目が覚めると、別人になる。
日によって性別も年齢も人種も様々。でも、中身はウジン本人。超特異体質。
って言うか、よく思い付いたこのアイデア。
普通に考えればありえねーし、ツッコミ所もあり。
でもアイデア負けせず、風変わりだけど普遍的な好編ラブストーリーに仕上がっている。
この不思議な体質?現象?が始まったのは高校生の時。
毎日毎日別人になるのだから、以来平凡な生活を送る事が出来なくなったのは想像付く。
学校も行けず。就職も出来ず。人と接する事は全てNG。
知っているのは二人だけ。まず、母親。別人になった息子を最初は驚くが、受け入れる。偉大な母の愛…実はある秘密が。唯一の親友サンベク。彼も勿論最初は驚くが、笑って受け入れる。美女になったウジンに一回やらせてくれなんてバカな事ばかり言ってるが、友情には厚いいい奴。
仕事はオーダーメイドの家具職人。サンベクと立ち上げた家具ブランドはたちまち人気に。
ウジンもずっと引きこもりではない。イケメンになった時はナンパして一夜限りのお遊び…って、コラ! その日もとある家具店を散策していたら、出会ってしまったのである。
販売員のイス。明るく、とても魅力的。家具が大好きで、特にウジンとサンベクが立ち上げたブランドのファン。
もし自分が普通だったら、これ以上ない運命の出会いなのに…。
ウジンは恋をする事も無理。自身は恋しても、相手からすれば毎日毎日別人。
それでも諦めきれないウジン。イケメンになった日、思い切って声を掛け、食事に誘う。
また今度…と断られそうになるが、ウジンに“また今度”は無い!
半ば強引に食事を。ちょっと変わった好青年が良かったのか、馬が合ったのか、それともお互いの共通点=家具好きで気が合ったのか、親交を深める。
寝たらまた別人になる。ウジンは寝ない事を誓う。この恋、不眠だぜ。
が、ついつい寝てしまい、別人に…。もう彼女と会う事は出来ない。約束もそれっきりに。
突然の音信不通をイスも気になる。
これで諦めるしかないのか…?
否! ウジンは今度は若い女性になり、職場研修の新人として近付く。一途だが、見方によっちゃあストーカーすれすれ?
この恋を続ける唯一の方法。それは、本当の事を話す。受け入れてくれるか…?
激しく戸惑うイス。無理もない。現実離れした話。だって、今目の前にいる若い女性が、自分はウジンだと言っている。
ウジンは別人の時の動画を残している。その全員がウジンだと言っている。
皆、イスに想いを寄せている。集団ストーカー…?
結局、拒否されてしまう。
この恋は終わった…かに見えた。
以来、気になり続けるイス。
ひょっとしたら、今、隣にいるのは…? いや、とても信じられないけど。
彼の自宅を訪ねる。出てきたのは、日本人女性。
彼なのだ。話し込み、彼のこれまでを知る。辛い事、独りぼっちな事…。
部屋には様々な衣服、靴、眼鏡やアクセサリー。その日その人物に応じて。彼の言ってた事は本当だったのだ。
イスはそんなウジンを受け入れる。
ウジンにとっても自分を受け入れてくれる愛する人が出来た。
男になったり女になったり、紳士になったりおじさんになったり、外国人になったり…。
毎日変わる変わる姿を、イスも楽しんでいるよう。子供姿のタメ口は注意だけど。
イケメン時で同僚に紹介したり、交際は順調。
幸せに満ち溢れていた。
落ち合う時は今日はどんな姿か必ず事前に連絡して。探してみて、と、ついつい調子に乗ったウジン。不安に駆られるイス。初めての喧嘩。些細な事かもしれないが、当人たちにとっては…。
イスには恋人がいながら別の男もいる。しかも、毎日毎日変わる変わる。そんな噂が立ち始める。
ウジンもイスも恋にうつつを抜かす余り、仕事の方に支障が…。
それでも二人でいる限り幸せだったが…。
イスが体調を壊す。薬を服用。原因は、ストレス。
やはり無理をしていたのだ。ウジンに会うも、いつも別人。それを納得し、受け入れるには一日じゃ足りない。
あるシーンで本音。彼の顔を覚えられない。号泣する…。
そんな彼女の気持ちに気付いてやれなかった。負担をかけていた。
にも関わらず、自分は楽観的にプロポーズまで。
プロポーズして、その後どうなる…? 自分たちは理解してるけど、相手の親は…? 人と接する機会も増えてくる。その時周囲は…? 人並みの暮らしを送れるのか…?
幸せに浮かれてよく考えていなかったけど、問題山積み。愛さえあれば…なんて理想事綺麗事を言ってられない現実。
ウジンは母親に相談。ここで衝撃の真実。
ウジンの父親も同じだったのだ…!
ウジンの母親は今のイスと同じ。周囲から陰口叩かれても夫を受け入れていた。が、ある日の夫の顔を忘れてしまった。双方苦悩が原因となって、夫はある日姿を消した…。
イスも今苦しんでいる。そんな彼女を苦悩から解放するには…。
ウジンはイスに別れを告げた。
やはりまた、独りに戻るしかないのか…?
愛を成就させる事は出来ないのか…?
ウジン役は基本が無いので、実に123人が配されたという。123人! つまり、123人一役。123人一役なんて初めて聞いたよ…。
その一人に、日本から上野樹里。ウジンとイスが心を通わす重要な姿を請け負う。
ウジンのユニークなキャスティングは後にも先にもないかもしれないが、それ以上にハン・ヒョジュの魅力にイ~チコロ! 喜怒哀楽、仕草、好演、美しさ、可愛さ…全てにメ~ロメロ! これぞ眼福。
元CMディレクターの監督によるテンポの良さ、美しい映像、センスもグッジョブ!
劇中登場する家具も魅力的。
一年ほど経って…。
体調は良くなり、仕事も良好だが…、何故か苦しいイス。
ある日ある家具に、ウジンの姿を見る。彼が今、外国にいる事を知る。
表向きは仕事として、その住所へ。出迎えたのは、見知らぬ男…。
相手は知らぬ存ぜぬを通すが、それが今日の姿である事はすぐ分かった。
このモヤモヤした気持ち、苦しい気持ち。
問題や障害だらけだからじゃない。ウジンと一緒にいられないから、苦しいのだ。つらいのだ。
何だか随分遠回りした気もするけど、最後はハッピーエンド。
予定調和ではあるけど、その人の何を好きになるのか…?
外見か、中身か。
風変わりな恋を通して、実はとってもストレートに伝えてくれる。