「人を愛した記憶も人に愛された記憶も、もう一度目を閉じて思い出してみたくなる。」ビューティー・インサイド みふゆさんの映画レビュー(感想・評価)
人を愛した記憶も人に愛された記憶も、もう一度目を閉じて思い出してみたくなる。
人を、愛したことがある。喜ばせたい一心で努力した。高価で貴重なものから自然で美しいものまで、好きなものを贈った。手を握り、強く抱きしめた。
人に、愛されたことがある。心のこもった手紙をもらった。遠くから会いにきてくれた。私を見て、何も言わずに微笑んでくれた。
でも、眠りから覚めると外見が変わってしまうウジンは私とは違う。彼に、愛はできない。だって、例えウジンが愛する人を見つけられても、その人がウジンを見つけることができないのだから。
“今日会った彼女と、明日、あさって、来月も会うことなんて、僕には奇跡としかいえない”
確かに、毎日寝て起きたら姿が変わるなんて、現実には起こりえない。でも、このファンタジーの要素こそが、人を愛すること、人に愛されることの本質を考えさせてくれる。僕は彼女の、私は彼の、何を愛しているのだろう。。。
“ずっと今日が続けばいいのに。あなたはそのままの姿で、私もこのままで”
音と光が、とても美しい作品だった。アップが多くても目が疲れないのはきっと、光と間の使い方なんだろう。音楽は物語の中で流れている曲がそのままBGMに切り替わったり、ストーリーを決して邪魔しない。
主演の二人の声もよかった。包容力のある低めのトーンが心地よく響く。韓国語ってきれいだなと、その発音の美しさを改めて実感したりもした。
“愛は全てを解決することもあれば、愛のせいで、全てが壊れてしまうこともある。”
顔を持たない主人公のラブストーリーは『her』もそうだ。両作品共に、愛の本質を追求しようとする、素晴らしい映画だと思う。
“一緒に食べたものから行った場所まで、全部覚えているのに、あの人の顔が思い出せないの”
街中で突然、立ち止まったイスがつぶやく。“目を閉じていてもあなたを感じられるように”、と。毎日姿が変わるウジンに愛され、彼を愛してしまったイス。どんな姿であっても彼を愛したい。彼を見つめる彼女の目にはその強い意志と深い愛情がうつっていて、それが心に残った。
その瞳の輝きはもちろん、主演のハン・ヒョジュなしには表現できなかったことなんだと、美しい人との出会いにも感動があった。
愛って、同じ外見であることが前提なのだろうか。誰かの内面だけ愛することなんて、本当は出来ないんじゃないだろうか。思い出せない記憶を愛と呼べるのだろうか。
人を愛した記憶も人に愛された記憶も、もう一度目を閉じて思い出してみたくなる。そんな不朽の名作に、大粒の涙以上の感動を味わった。
“傷つくけれど、あなたがいないことの方がつらいから”
みふゆ