「幽霊とは歴史の証人」クリムゾン・ピーク 寫樂斎さんの映画レビュー(感想・評価)
幽霊とは歴史の証人
日本の特撮やアニメなど、様々なポップカルチャー好きを公言しており、日本では「パシフィック・リム」でその名が一躍有名となったギレルモ・デル・トロ監督の最新作である。
ギレルモ監督といえば、前述したこともあり、割りとオタク向けの監督と思われがちだが、氏のファンにそんなことを言えば鉄拳制裁を食らうこと請け合いである。氏の真骨頂は、オタクとは対局に位置する、絵本のようなファンタジー世界で繰り広げられる非常にリアリティのある人間模様だからだ。
さて、そんな本作。率直な感想は、氏の得意分野のダークな世界観を存分に活かし、その上で、愛憎など様々な感情渦巻く人間模様を非常にうまく描いたドラマだと感じた。
まずは、プロモーションでも押し出されている、洋館の描かれ方。本作はダークファンタジーでありながらも、事件の多くは、紛れも無い現実世界で起こっている。それ故に、基本はそこに実際に存在する、朽ち果てて古びた歴史ある洋館という描かれ方をしている。しかし一方で、そのあまりにも現実離れした体験などにより、主人公は今起きていることが、現実なのか否かという境界をさまよう。そういった場面での洋館の描かれ方は、まるで怖いおとぎ話のような、非常に幻想的でおどろおどろしい描かれ方をする。つまり、現実的な建物でありながら、時折、あまりにも現実離れした姿も見せる、変幻自在の様相を呈しているのだ。まさに、監督が求めていた「生きているかのような洋館」が非常に感情豊かに描かれている。また、燭台や食器類、ベットや扉の取手ひとつひとつが非常に作りこまれており、職人のコダワリも垣間見ることが出来る。この洋館を隅々まで観るためだけに、大スクリーンで鑑賞した価値は十分にあると思う。
続いて、俳優。本作の主人公は、ミア・ワシコウスカ、ジェシカ・チャステイン、トム・ビドルストンの3名である。特にジェシカ・チャステインの演技は素晴らしい!(個人的に好きな女優さんというのもあるが…)数々の女優賞の受賞歴がある彼女だが、ああいった演技は非常に珍しいと記憶しており、聡明な女性や勝ち気な女性を演じる傾向があったので、本作のような妖艶でミステリアスというか、端的に表現するなら「怖い女」をここまで怪演出来るのかと、非常におどろいた。女優として新境地を開拓したという感想だ。また、ロキでお馴染みのトムヒは、あいも変わらず笑顔が魅力的で紳士な男性を演じるのが上手い。あの怪しげな笑顔に魅了される女性が多いのも十分に納得できる。胡散臭いけど優しい男性を演じさせたら彼の右に出るものはいないだろう、そう確認できた役柄だった。