クリムゾン・ピーク : 映画評論・批評
2016年1月5日更新
2016年1月8日よりTOHOシネマズシャンテほかにてロードショー
デル・トロの幻想世界に、メイン3人の絶妙なキャスティングが光る
ミア・ワシコウスカにトム・ヒドルストン、そしてジェシカ・チャステイン。ギレルモ・デル・トロが手がけるゴシック・ロマンスに、彼の真骨頂であるダークな幻想世界がハマりそうな3人が揃うとなれば気にならないわけがない。実際、“「クリムゾン・ピークに気をつけろ」と母親の亡霊から忠告を受けていたのに”というヒロイン、イーディス(ミア・ワシコウスカ)の悔恨から幕を開ける物語を魅力的なものにしているのは、この3人の存在なのだ。
映画作家としての評価が高まると、ビッグネームがキャスティングされたり、製作スケールが大きくなったりで、作家の持ち味が薄れることがままあるものだが、それを補うのもまた豪華キャストのオーラでもあるわけで。例えば、幽霊を見ることができるというイーディスの力によって、おどろおどろしく彩られることになるとはいえ、彼女と没落貴族トーマスとの恋もひと皮剥けば古典的なラブストーリーだ。だが、そのなかでもなお視覚的にも興奮を味わわせてくれるのが、優雅や頽廃が似合うキャストたち。トーマスを演じるヒドルストンはニューヨークの女性たちを虜にする英国貴族の気品を漂わせながら、その裏に隠された弱さをも魅力に変えて女性客の心をくすぐるのは疑うべくもないし、チャステインはあの細い体躯に纏う血の色のドレスに、ルシールという女の底知れない怖さをうかがわせて出色。そう、蝶を思わせるイーディスのドレスの大きなパフスリーブといい、ドレスもまたそれぞれのキャラクターを物語るのが今作の醍醐味の一つなのだが、そのドレスが似合う演技陣が揃ったことがまた素晴らしいのである。
忠告されても耳に入らないだろうくらい恐ろしい母親の亡霊の姿にはツッコミを入れずにはいられないし、クライマックスはアメリカの劇場だったら爆笑が起こりそう。だが、そのへんはすべてこの3人の絶妙なキャスティングと相まって生み出される映像美が吹き飛ばしてくれていたことに、観終わって時間が経ってから気づくはず。
(杉谷伸子)