「真っ赤な嘘だと言わないで」クリムゾン・ピーク 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
真っ赤な嘘だと言わないで
『ミミック』『パンズ・ラビリンス』のギレルモ・デル・トロ監督の
最新作は、18世紀を舞台にしたゴシックロマン。
本作の予告を観て『ホーンティング』というビッグバジェットの
お化け屋敷ホラーを思い出したが、あの映画は少しも
怖くない上に話もウルトラつまんなかったので(←オイ)
『クリムゾン・ピーク』にも若干不安を感じてはいた。
で、怖いかどうか?と訊かれたらだが、まあ、ほぼほぼ怖くない。
先日の『劇場霊』と同様、“恐怖映画”と呼ぶよりは
“怪奇映画”と呼ぶ方がしっくりくるだろう。
あ、だけど、血や虫類がニガテな方は、顔を背けたくなるような
ショックシーンが不意討ちで来るのでちょっと注意。
また、物語面でそんなに新味がある訳でもない。
ヒロインが嫁いだ妖しい男爵そしてその姉の抱える秘密……
と勿体ぶって“……”などと書いてみても、事の真相は
開巻30分でほぼ読めてしまうかも。ここが大きな
不満点。本作、ミステリ的な面白さはかなり薄めである。
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しかーし、本作の監督は異形に対する愛が
ハンパないギレルモ・デル・トロ大先生。
本作最大の見所は間違いなく美術面だ。
衣装、舞台装置、クリーチャーデザイン、これらがとにかく素晴らしい。
特に、舞台となる館“アラデール・ホール”の様式美には目を見張る。
朽ち果てた天井から雪が舞い落ちる巨大なロビー、
血のように紅い泥が貯蔵された不気味な地下施設、
暗く長い廊下の壁の、甲虫の腹のように複雑で不気味な曲線。
採掘機、エレベータ、ピアノ、暖炉、オートマタなど、
随所に登場する小道具も作り込まれており、
不穏な存在感を発揮していて良い良い。
もうひとつ大事な小道具が、映画のタイトルとも
なっている“クリムゾンピーク”という土地の赤い土。
屋敷の庭や床板から滲み出る深紅の泥土はまるで
巨大な生物の血肉のようだ。取り繕った皮膚の下
には、どんなおぞましい感情が隠れているのか?
『雪が降ると丘全体が深紅色に染まる』という設定も、
人間の醜悪な部分が表層に表れる事の表現なのだろう。
まあ、残念ながらその要素も、匂わせぶりな割には
アッサリと処理されてしまっているのが難……。
そして、白・黒・深紅の幽霊たち。
デザインそのものは怖いとは感じないが、ユニーク。
まるで水に垂らした血や水墨のように揺らめく部分が印象的だ。
あくまで物語を誘導する手段であるという立ち位置も良い。
これら美術面でのこだわりは流石はデル・トロ監督と言った所。
琥珀色と翡翠色そして深紅のコントラストが
強烈な映像もあいまって非常に美しく見応え十分。
『シャイニング』『ミザリー』などの過去の名作を
彷彿とさせるシーンや、クラシックな雰囲気を
意識したのだろう場面変換時の演出などにもニヤリ。
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キャストも魅力的。
ミア・ワシコウスカは、子供騙しのようなロマンスにも
コロッと騙されてしまいそうな純朴な雰囲気がピッタリ
(つっても彼女、ああ見えて現在もう26歳である)。
トム・ヒドルストンも優男な雰囲気が良いね。
真っ赤な嘘ばかりじゃなかったしね。
最後のシーンは美しくも物悲しかった。
あと忘れちゃいけないジェシカ・チャスティン姐さん。
鉄のような硬い表情が怖いが、それは序の口……。
最後は何だか『蜘蛛巣城』の山田五十鈴を連想してしまう恐ろしさ。
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という訳で、
恐怖面では物足りないし物語も印象が薄いが、
ゴシックな美しさとおぞましさが満載の映像と
キャスト陣の魅力で最後まで楽しめました。
観て損ナシの3.5判定で。
デル・トロ監督の次回作も楽しみだ。
きっと世間的には『パシフィック・リム2』が
待ち望まれてるんだろうけど……ほら、その、なんだ、
『狂気の山脈にて』の映画化もご再考願いますよ監督。
<2016.01.10鑑賞>
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余談:
物語の舞台となる館“アラデール・ホール”があるのは、
人里離れた静かな丘の上。
静かな丘……サイレントヒルズ……いや……
何でもない、何でもないよ……。