「数少ない"覚悟を持った"作品。」映画 聲の形 さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
数少ない"覚悟を持った"作品。
人が人を理解するのには限界はないのか?
絶賛コメントではありません。
でも、原作者:大今 良時せんせにとっては、議論が多方向に広がることこそが意義とされていると推察し、劇場公開中作品は悪く言わない!の自己ルールを破って書きます。
あ、大今せんせも、「絶賛コメントより、批判コメントの方が分かりやすくて気持ちが良い!」
と仰ってますし。
宜しくお願いいたします。
(あらすじ)
ガキ大将的な存在の小学六年生:石田将也は、転校生の西宮硝子に興味を持つ。最初はからかう程度だった将也のいたずらが、だんだんと硝子の障がい(聴覚障がい)に及び、周りの生徒達も加わって、集団的な"いじめ"に発展する。しかしある事件をきっかけに、硝子は転校。そしていじめの対象は、将也に向けられる。
数年後、高校生になった将也は硝子に償う決心をして、手話教室へ向かう。そこにいる、硝子へ会う為に。
原作の漫画は、色んな賞を受賞しているのですね!
すみません。未読です。
凄く勇気のある描き方をしていると思った反面、将也が硝子をいじめたのは(原作は分かりませんが)"障がい者"だったからか、好きな子をいじめるという"反動形成的な男子の心理" だったのか、ふわっとしているとことか(そこをふわっと描くなら、硝子を障がい者という設定にする必要がなくないか?)、また、いじめの加害者である将也を、被害者である硝子が許す大きな原動力が"異性として好き"でいいもんなのか。
硝子が"好き"に辿り着くまでの心の変化が、ちょっと分からなかったですね。
好きな男子になら、何されても許せる!って女子の心理は否定しませんが、やはり硝子を障がい者という設定にする意味がない上に、テーマがぼやけてくるように思えます。
いじめの被害者が加害者を好きになるまでの過程を、あまりにも"胸きゅん"気味に描いていて、"好き"で全てを丸く収め過ぎな感じもしました。
ちょっと、もろもろ疑問が残ったのは、"好き"の熱量がかなり減少した、おばちゃんの私だからだと思います。すみません。
その中で凄く勇気のある描き方だと思ったのは、将也と硝子のクラスメイトの植野直花の存在です。
直花は硝子が嫌いと言い、はっきりとそれを本人に伝えます。最初は将也が硝子に好意を持ってることに対する嫉妬のように思えますが、後半はっきりと、それだけではない理由を言います。
「(硝子が)私達を理解しようとしないから」と。
「私達(直花他クラスメイト)も硝子を理解しようとしてなかったかも知れないけど、あんたもしてなかったじゃん。将也のすること、私達のすることに、全く意見を言わなかった」
つまり、自分を理解して貰う努力はしたの?って。
障がい者は理解されて当たり前の存在ではない。
そして当初は硝子に好意的だった直花が、なぜ態度を変えたのか語ります。
ちょっとびっくりしました。あまりない、描き方だったので。
でもよくよく考えたら、障がい者は弱くて、こちら側から歩みよってあげなくてはいけない存在ではないんだ。
直花は鋭い言葉を硝子に投げつけますが、唯一、硝子を対等に見ているんですよね。
冒頭に議論が多方面に広がることを、原作者は望んでいる。と書いたのは、この直花の存在からです。
他にも優等生:川井 みき、唯一、硝子を庇ってよい子ちゃんのレッテルを貼られ不登校になった:佐原 みよこなど、色んな視点からの思いが交差する。
本作が、一方向に感情を流そうとする感動物ではないことが、よく分かります。素晴らしいと思います。
あと、もう一人。硝子の妹の存在。
表面的には、純粋無垢な硝子に見えます。
周りに責められても「ごめんなさい」を繰り返す硝子は、とても健気で、控えめで、多くの人が受け入れやすい"障がい者像"ではないかと思います。
だから、こういう障がい者の描かれ方、もの凄く多いですよね。
けれど、本作は違います。
妹:結絃は、男の子の格好をして、中学校にも行っていません。
常に姉の傍にいて、姉が危険なことをしないか、誰かに傷つけられないか監視しています。
そしてカメラを首にかけ、動物の死骸を撮り続ける。それは、姉へのメッセージです。
「死ぬな」と。
この、姉の為に"自分の人生を捨てている"妹の存在が、硝子が単なる純粋無垢な少女ではないことを証明している。
自分勝手で、傲慢な、自分の痛みだけに閉じ籠もる、硝子の姿が見えてくる。
この描き方は、凄く上手いなぁと感心しました。
以前「マルガリータで乾杯を」という映画で、自由奔放(実際は違う)な主人公に対してまるで「障がい者は控えめに生きろ」とでもいうような批判的な感想を見て、ぞっとしたもんです。
個人的には、恋愛要素はあまり膨らませるべきではなかったように思います。
そして、冒頭にも書きましたが、もっと人と人が理解する"限界"を描いて欲しかった。
分かり合えない関係だって、いいじゃない。
でも、自分だったら、あのクラスでどうしたか?
自分だったら……、と観客に思わせたら、大成功ですよね。
傑作という評価が散見されますが、私は本作を「数少ない"覚悟"を持った作品」だと感じました。
全力で、オススメします。