「リアルな殺陣で魅せる時代劇」無限の住人 みかずきさんの映画レビュー(感想・評価)
リアルな殺陣で魅せる時代劇
本作は、時代劇の醍醐味である殺陣を惜しげもなくの盛り込みながら、死に様を重視する時代劇に不死という真逆で大胆な設定を加えた新感覚の作品である。
本作は、不思議な老人に不死の体を授けられた100人斬りの異名を持つ剣士・万次(木村拓哉)が主人公。不死の体になったことで生きる目的を見失い、無為に生きてきた万次の前に、殺された妹と瓜二つの凛(杉咲花)が現れ、父親の仇討ちの用心棒を依頼する。仇は逸刀流の首領である天津影久(福士蒼汰)。亡き妹への想いから、用心棒を引き受けた万次は、仇一味ばかりではなく、様々な敵を倒し、ついに仇と対峙することになるが・・・。
従来時代劇は主人公の死に様がクライマックスであり、死と隣り合わせの生き様の潔さがクローズアップされるケースが多い。これに対して本作の主人公は不死である。命に限りが無いので、ぼんやり無目的に生きている。優しさを捨てられず、無限(不死)の世界を彷徨っている感がある。そんな主人公が、凛と出会うことで、生きる目的を見出していく。生き地獄のような無限(不死)の世界から立ち上がっていく。木村拓哉が円熟味を増した“らしさ”を発揮して、難役である不死の主人公の彷徨を好演している。福士蒼汰も迷いのない真っ直ぐな青年剣士を熱演している。
主人公が不死になって登場した時、片眼、衣装から、往年の傑作時代劇・丹下左膳を思い出した。丹下左膳へのオマージュが感じられた。これは、かなり泥臭いリアルな殺陣をやる気だなという予感がしたが、その通りだった。主人公は様々な敵を倒していくが、圧勝ではない。不死身の体を活かした泥臭い満身創痍の辛勝である。様式美のようにスマートではないリアリティを重視した殺陣が際立っている。
剣術の流派統一の野心に燃える福士蒼汰のサイドストーリーが、出世、裏切り、虚々実々の駆け引きなど、典型的な時代劇の要素を取り入れていて、儚く切ない。荒唐無稽、無味乾燥に成りがちの作品に落ち着きを与えている。
本作は、全編、殺陣の連続であるが、特にラストの300人斬りとも称される殺陣は壮絶であり圧巻。万次、影久の鬼気迫る一刀入魂の太刀さばきは迫力十分。無限の住人である万次と有限の住人である影久の対照的な生き様がそのまま殺陣に体現されている。
本作は、あれこれ詮索せずに、殺陣の魅力を無心に無邪気に堪能したい作品である。