劇場公開日 2017年1月28日

「少し粗いタッチと、クライマックスに向けて収斂していく物語、の組み合わせが無二の魅力を放っている一作」タンジェリン yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5少し粗いタッチと、クライマックスに向けて収斂していく物語、の組み合わせが無二の魅力を放っている一作

2025年3月15日
PCから投稿

第97回アカデミー賞で作品賞、監督賞など6部門を受賞した『ANORA アノーラ』のショーン・ベイカー監督が2015年に発表したこの作品。全編iPhoneで撮影した映画としても話題となり、映画の新時代到来を強く印象付けました。

iPhone独自の色味に加えて、監督の色彩感覚を強く反映した、黄色の印象が強い映像は、ロサンゼルスの、荒廃が目立つ一角の雰囲気を生々しく伝えています。加えて手持ち撮影を多用した、やや粗いカメラワークによって、ドキュメンタリー作品を見ているような雰囲気が強まっています。

このあたりにもインディペンデント映画作家としてのベイカー監督の特色がよく現れていました。制作体制もインディペンデント性が強く、ベイカー監督は監督だけでなく、撮影も編集もこなしています。

監督自らが携えたカメラがとらえる人間模様は、主人公である二人(キタナ・キキ・ロドリゲスとマイヤ・テイラー)をはじめとして癖のある人ぞろいのため、別々に展開する物語がどう収斂していくのか、目の離せない緊張感があります。

しかも彼らの、人間としてあまり褒められたもんじゃないところまでも率直に描写していることがむしろ、視点としての公平性を強く感じさせます。どんな立場の人でも本作を鑑賞して、様々な観点から評価できる余地を与えているあたり、一見観る人を選ぶ作品のようで、実はものすごく受け口の広い映画と言えます。

そして実際のクライマックスの、「こう来る……?」「まさかこの場面で……?」という落差は最高。

『ANORA アノーラ』から見て約10年前の作品であるにも関わらず、小咄と言っても良いような一つ一つのエピソードの語り方、そしてそれらを束ねていく過程のドライブ感など、すでにストーリーテラーとしてのベイカー監督の手腕は見事としか言いようのない領域に達していました!

yui
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