「丘に吹く風に・・」神様の思し召し odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
丘に吹く風に・・
腕利きの心臓外科医とムショ帰りの神父さん、両者の社会的役割の優劣を問う話でもないし神学論争と言うほどの改まった話ではない、志す道は違っても同じ善人であることに変りはない。
ミスが許されず緊張を強いられる医師ゆえかもしれないが自分にも他人にも厳しい性格となっても致し方ない、様式的な神学者でなく落伍者から這い上がってきた人生経験から出る説教は若者の心をとらえる。医学生の愛息子が神学校に行くと言い出したことから感化された神父に疑心を抱き調べ始めるところから、出会うはずのなかった二人が急接近するのだった。
神父が昔悩んだ時に来ていたという丘に医師を誘う、まるで「千の風になって」の歌詞のようなやり取りが印象的だった。
医師:「神ってなんだ、教会にいるのか?」
神父:「あんな狭いところに収まる訳はない、風や雲、梨の実が熟して落ちるのも自然の摂理、それを神の御業と感じるだけなのさ・・」。
飾らない神父の人柄に触れることで自身の価値観の狭量さに気付き家族や周りの人々への心の目が開かれてゆく・・。
脱線ですが、ボストンフィルを立ち上げたベンジャミン・ザンダーさんの講演の中で言葉の大切さについて語られた話を思い出しました。アウシュビッツに収容されて戦後生き延びたご婦人の話です。
姉は15歳、弟は8歳で両親は亡くなっていました、収容所行の列車の中で靴を履いていない弟に「無くすなんて何てバカなの!」と叱ってしまいました。それが彼女が弟に言った最後の言葉になってしまいました。彼女は「それが最後の言葉になったら困るような発言は二度としない」と誓いを立てたそうです・・。
コミュニケーションの意味など改まって考えることもない日常ですが実はとても大切なことと気づかせてくれる良作でした。