「狼の死刑宣告。 いや、お前が主人公だったんかいっ!!」ボーダーライン(2015) たなかなかなかさんの映画レビュー(感想・評価)
狼の死刑宣告。 いや、お前が主人公だったんかいっ!!
アメリカとメキシコ麻薬カルテルの抗争を描いたクライム・サスペンス。
優秀なFBI捜査官のケイトは、麻薬カルテルのボスを逮捕するため国防総省の顧問マットが率いる特別捜査チームに加わるのだが、そこで彼女は想像を遥かに超える”戦争”を体験することになる…。
監督は『プリズナーズ』『複製された男』のドゥニ・ヴィルヌーヴ。
脚本は当時俳優として活動していたテイラー・シェリダン。後に映画監督としても大成する。
FBI捜査官、ケイト・メイサーを演じるのは『プラダを着た悪魔』『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の、名優エミリー・ブラント。
チームを指揮する国防総省の顧問、マット・グレイヴァーを演じるのは『グーニーズ』『メン・イン・ブラック3』のジョシュ・ブローリン。
アリゾナ州の警官、テッドを演じるのは『ナイト ミュージアム2』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』のジョン・バーンサル。
捜査チームに加わる謎のメキシコ人、アレハンドロ・ギリックを演じるのは『ユージュアル・サスペクツ』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の、オスカー俳優ベニチオ・デル・トロ。
うわぁ、面白ぇ……。
メキシコ麻薬戦争を舞台に、二転三転する状況に翻弄されるFBI捜査官ケイトの成長と活躍を描く物語。…かと思いきや。まさかそう来るか〜!
全く先の読めない物語運びと、硬質かつシリアスな作劇、そしてバキバキにキマりまくった映像美。何から何まで一級品。これはちょっと文句のつけようがないんと違う?
監督はドゥニ・ヴィルヌーヴ。彼の作品は『ブレードランナー2049』(2017)しか観たことが無く、「退屈なSF映画を作る人」という程度の認識だったのだが、まさかこれほどまでに本格的なクライムムービーを作れる監督だったとは!!心底驚いてしまいました。正直こういう路線の方が向いてるぞドゥニさん。
ドキュメンタリーかと勘違いしてしまうほどにリアルで緊張感のある絵作り。その丁寧な仕事ぶりと手腕に惚れ惚れしてしまった。
とはいえ、確かにシリアスな雰囲気と上品なルックにはドゥニ・ヴィルヌーヴらしさを感じるものの、この作品からはテイラー・シェリダンの味を強く感じた。
彼の脚本家デビュー作でもある本作。全てを観ているわけではないが、鑑賞した範囲で言えばシェリダンの作る映画はいずれも極限の状況下で繰り広げられる死闘と目を覆いたくなるような人間の業が描かれている。
西部劇の正統進化形とも言える、地に足のついた骨太さが彼の作品の魅力だが、脚本家としてのみ携わっている本作もまさにザ・シェリダンといった味わいで、一筋縄ではいかない過酷なメキシコ麻薬戦争の現状が確かなタッチで描き出されていた。
デビュー作から作家性を醸し出し、しかもこのクオリティで仕上げるって、この人マジで天才なんじゃないの?
ヴィルヌーヴが監督、シェリダンが脚本、そして撮影が名匠ロジャー・ディーキンス。この座組に加えて主演がエミリー・ブラントとベニチオ・デル・トロ。そりゃ映像も物語も凄いことになるよねぇ…。
物語の見せ方も上手い。
主人公ケイトは右も左も分からないまま、カルテルとの戦いの渦中に巻き込まれる。ケイトと同じように、観客も何が何やらよくわからないままこの麻薬戦争の只中に放り込まれる。観客はまさに彼女の目と耳を通して、彼女とまるで同じ心境になりながらこのメキシコ麻薬戦争という出来事を追体験出来る訳です。観ているうちにケイト=自分のような感覚に陥ってくるので、凡百のクライム・ムービーと比べるとその没入感は段違いなものになっていると思う。
しかし、終盤になるとガラッと様相が変わる。ケイトはダミーの主人公であり、実の主人公はギリックであることが判明するのである。
ギリックが主人公になってからは、五里霧中だった物語の焦点がバシッと定まり、ストーリーの骨子が明確になる。まさに暗いトンネルを抜けたかのように視野がスッと開けるといった感じであり、ケイトが暗いトンネルを抜けるとそこには…というストーリー展開と観客の心理の変化が完全にリンクしている。このクールすぎる演出に大いに興奮してしまった🤩
残念だったのはエミリー・ブラントの肉体。せっかく『オール・ユー・ニード・イズ・キル』(2014)であれだけの肉体美を作り上げたのに、本作では痩せすぎなぐらいに体を絞ってしまっている。
もちろんケイトを演じる上での役作りなんだけど、筋肉フェチの自分としてはムキムキのままのエミリー・ブラントが見たかった。いやほんと、『オール・ユー』の時の彼女の腕立て伏せ姿が美しすぎて、夢にまで出てきたからね。あの上腕二頭筋と三角筋は芸術です!!
もう一つ気になる点を挙げるとすれば、ケイトとテッドの出会いからその結末までがあまりにも性急すぎたところかな。テイラー・シェリダン作品にはお馴染みの俳優、ジョン・バーンサルの登場にはおおっ!となったけど、ちょっとこのシークエンスには取ってつけたかのようなチープさを感じてしまった。
『ブレードランナー2049』の時も思ったけど、あんまりヴィルヌーヴは男女のラブシーンが上手くないような気がする。
と、少し文句も言ってしまったが、これは重箱の隅をつつくようなもの。結論を言えば大満足!キャラクター描写、ストーリー、映像、緊張感、善悪を超えたビター過ぎるエンディングまで、とにかく完成度の高い素晴らしいサスペンス映画でした👏
これは続きも観てみたいぞ!!
「終盤になるとガラッと様相が変わる。ケイトはダミーの主人公であり、実の主人公はギリックであることが判明するのである」
そうそう全くその通りで、この展開は確かにとても鮮やかで面白かったのを新ためて思い出しました。素敵で素晴らしいレビューですね。有難うございます。