「何より驚いたのはゲルダという人の先進性と精神のしなやかさだった。」リリーのすべて lylycoさんの映画レビュー(感想・評価)
何より驚いたのはゲルダという人の先進性と精神のしなやかさだった。
まだLGBTみたいな通念もないような時代に、夫が持つ女性性を受け入れる。それだけでも、相当に柔軟な感性だと思う。夫妻がともに芸術家だったことも関係があるかもしれない。ついに男の自分に耐えられなくなったアイナーは、リリーという女性として生き始める。それでも理解を示し、支え続けるゲルダの内には、どれほどの葛藤があっただろう。
いまでも十分に受容されているとはいえないけれど、性自認の違和感や性の多様性に関する知識はずいぶんと広まってきている。いまどきの人権感覚に照らせば、リリーがお仕着せの男性性を生きる苦痛から解放されたいと願うのは当然の権利だろう。頭では解っていても、ゲルダに感情移入するほどリリーの言動が我儘に見えてしまう。修行が足りない。
一方、作中のゲルダの苦悩は「愛する夫が夫でなくなっていく悲しみ」と「愛する人が心身ともに傷ついていく辛さ」に集約されている。序盤こそ他に為すすべもなく夫に治療を受けさせたりもするけれど、結局のところ「自分の本性は女性だ」というリリーの主張については全面的に信用し、特に異常なものだとは捉えていない。なんて素敵なセンスだろう。
それでもゲルダは神や超人ではなく、普通の人間だということに安心し、感動する。
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