劇場公開日 2016年5月28日

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オオカミ少女と黒王子 : インタビュー

2016年5月27日更新
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二階堂ふみ&山崎賢人、出会いから6年--廣木隆一監督の現場で得たもの

10代は人間としてだけでなく、俳優としても成長期のようだ。出会いから約6年。二階堂ふみと山崎賢人は、それぞれの経験を積み重ね「オオカミ少女と黒王子」で再共演を果たした。人気少女コミックを原作とする王道のラブストーリーを、廣木隆一監督の下でとことん追求し三次元の世界へと具現化。さまざまな挑戦を繰り返し、さらなる成長を見せている。(取材・文/鈴木元、写真/根田拓也)

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共に1994年9月生まれの2人は、2010年のテレビ朝日「熱海の捜査官」で腹違いの兄妹役で初共演。山崎はまさに俳優デビュー作で、二階堂は既に映画「ガマの油」などに出演していた違いはあるが、当時から互いの才能を認める部分があった。

二階堂「山崎くんは、監督が演出の中で発した言葉を断片的に自分の中にスッと入れられる人なんだという印象が最初からありました。それに、すごく明るくてムードメイカーですし、現場にいる人が楽しくなるような人でしたね」
 山崎「ふみちゃんは当時から、普通の同い年の女の子とは違うというか、自分の好きなこと、やりたいことをすごく持っているなと感じました。あの時は僕、何も考えていなかったので、格好いいなと思っていて信頼もしていました」

その後、二階堂は園子温、熊切和嘉、石井岳龍ら作家性の強い監督らにもまれ、一方の山崎も映画で主演作を重ね、昨今では「orange オレンジ」など少女コミック原作ものには欠かせない存在となっている。たどってきた作品の方向性は異なり、約6年ぶりの再会だったものの、それぞれの成長を感じながら「オオカミ少女と黒王子」の世界観に溶け込んだ。

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二階堂「今、女の子たちからもすごい人気ですし、たくさんの映画で看板を背負ってきたからこそできる現場での振る舞いや、気の使い方などは会っていない間に本当にいろんなものを経験したんだなって感じて、すごく勉強になりました。同い年の役者さんとして尊敬する部分もたくさんあったなって思いました」
 山崎「当時からよく話していて、久々に会った時も今までどうしてきたとか、お芝居やプライベートなどいろんな話ができました。現場でも、自分のやりたいことだけではなく監督に言われたことでの掛け合いなど、一緒につくっていけたのが面白かったですね」

原作は累計550万部を誇る八田鮎子さんの同名コミック。恋愛経験ゼロのヒロイン・エリカが、友達に見栄を張るために街で“盗撮”したイケメンの写真をカレシと紹介。だが、そのカレが同じ学校に通うドSな黒王子・恭也だったことで、エリカは絶対服従を条件にカップルを演じるはめになる。二階堂にとっては廣木組への参加は念願だった。撮影前には一緒に買い物に出かけ、エリカの衣装などを見繕ったという。

「言葉じゃないところで、すごくつながりを感じることができる監督なんです。台本はこうだからこうしてではなくて、俳優が心の中から出てきた自然な気持ちならそれでって言ってくださる、温かくて大きな監督。だから私も山崎くんも、それぞれのシーンで自由に挑戦できましたし、お互いが本当に出し合っていて、それにとことん付き合ってくださるんです。言葉だけじゃなくとにかくやってみる、スピードに乗ってみる感じでいろいろなことが起きるのが廣木組でしたね」

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山崎も現場で廣木監督に寄り添い、二階堂と共有することで丁寧に恭也像を描出させていった。

「普通にドSなだけじゃ、ふざけてやっているように見えるキャラクターになってしまうのですごく悩んだんですけれど、現場に入ってみないと分からないなという部分が多かったですね。監督もそう思っていたようで、恭也のキャラやシーンの流れがちょっと違うところにいきそうになった時に、正してくれる感じでした。廣木さんの『よーい、スタート』は気が引き締まりますし、格好いいんですよ。長回しやすごく引いたカットなど、1シーン1シーンを楽しみながら過ごしていました。完成品を見たら、こんなに面白くなっているのかと思いました」

それにしても恭也のドSっぷりは筋金入りだ。「3回回ってワンだ」に始まり辛らつな命令(セリフ)の波状攻撃。役とはいえ、山崎の心は痛まないのだろうか。時折見せる優しさが胸キュンなのだろうが、受ける側の二階堂の心理も気になる。

山崎「そこがこの世界の楽しいところなので、楽しみながらやっていました」
 二階堂「恭也が強ければ強いほど、エリカも違う面白さが出てくる。変な遠慮がなくなって正面から向き合うことができたからこそ、私も今まで出せなかった表情があると思うんです。エリカには恭也の絶対強さが必要だったし、山崎くんが強く出てくれたから、私も自由に振り回さることができました」

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虐げられながらも恋心を募らせるがエリカ。とある理由で恋愛に踏み出せない恭也。少女漫画特有のやきもきさせる展開だが、そこはエリカに淡い思いを寄せる日下部(吉沢亮)をはじめ2人を取り巻くキャラクターが絶妙に絡み合う重層的な展開で、廣木監督のストーリーテリングが光る。

「2人のお話ではあるんですけれど、それぞれのキャラクターが成長しているのがこの映画のいいところ。個人的には日下部がすごくいいヤツだなあって、けっこうポイントが高いんです。エリカは最初と最後では全く違う感情が生まれるし、恭也も少し解き放たれたと思う。それぞれのキャラクターが絡み合って成長しているので、恋に限らず人を思う気持ちっていうのはすごくいいんだなって思える映画になったと感じました」

山崎も納得の表情でうなずきつつ、自身はラストシーンへの強い思い入れを語る。二階堂も笑顔で同意を示した。

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山崎「恭也があれだけ走ってやっと素直になったのに、ラストでは関係性が元に戻って何げない日常になっている。でもちょっと成長しているという、自分でやっているんですけれどほほ笑ましくて、すごく好きですね」
 二階堂「廣木監督の狙いだったと思うんですけれど、可能性を感じる終わり方じゃないですか。この先、2人にはいろんな未来が待っているんだと感じさせるラストだったから、お互い良かったねって話しました」

昨今、少女漫画の映画化はブームの兆しを見せているが、「映画や芸術を通して、流行(はや)りを追いかけるのはなく、流行りをつくっていく映画やキャラクターを常に意識しているんです」という二階堂の言葉通り、甘く切ないだけではない、エリカと恭也を軸に登場人物の心象風景をリアルに活写した青春群像劇として胸に残る。まさに2人の挑戦のたまもの。“胸キュン映画”の新たなスタンダードになるかもしれない。

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