「愚かで哀れでも、彼女は宝物を探したかった」トレジャーハンター・クミコ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
愚かで哀れでも、彼女は宝物を探したかった
何とも不思議な味わいの作品であった。
何処か可笑しく悲しく、題材となってる『ファーゴ』を彷彿させる。
コーエン兄弟の1996年の名作『ファーゴ』。
劇中で、スティーヴ・ブシェミが大金を雪の中に隠すシーンがある。
それを本当と信じ、アメリカに渡った日本人女性。
やがて凍死体となって発見されたという、アメリカでは都市伝説化されてる事件の映画化。
まず、『ファーゴ』の冒頭で“実話に基づく”とテロップされるが、実際は劇中のような事件は無く、完全なるフィクション。
それ以前に、映画なので、その場所にお宝がある筈も無い。
それを信じてしまった主人公のクミコとは…。
会社勤めのOL。
性格は地味、根暗、無愛想。
恋人は勿論、友達も居ない。たまに掛かってくる母親の電話がうるさい。
仕事はやる気無く、何もかもつまらなく、何の楽しみも無い。
そんな彼女の人生を変えたのが、『ファーゴ』のお宝だった…。
お察しの通り、病んでるくらいのイタイ女である。
いい歳した大人なのに、現実と映画の区別も付かない。
図書館から本を盗もうとする。
意を決してアメリカに渡るが、きちっとした計画性も無ければ、ろくな金もナシ。
親切にしてくれた初老の女性や保安官の恩を仇で返す。
盗んだ会社のカードが差し押さえられ、おそらくモーテルの金も払ってないだろうし、タクシーも乗り逃げ。
見てると本当に気落ちしてくる。
妄想に取り憑かれた人間ってここまで堕ちるのか。
でも同時に、哀れな同情感も抱いた。
愚かな行動だけど、目的の場所に行けば何かが変わる。そう信じて…。
抑えながらも、何処か狂気を滲ませる菊地凛子の演技が素晴らしく、一挙一動目が離せない。
製作総指揮も兼ね(あのアレクサンダー・ペインの名も!)、小品ながらも作品に対する彼女の意気込みが伝わってくる。
それだけに、せっかく前半日本が舞台となり、多くの日本人キャスト・スタッフも携わっているのに、日本未公開が残念でならない。
クミコの宝探しの冒険の行方は…?
えっ、まさか!?…と意表付くラスト。
しかし、すぐに分かった。これは“本当じゃない”と。
あの夜の風雪を、布団だけを被った格好で凌げる筈がない。
最後の最後にやっと笑顔を見せたクミコ。
彼女が辿った本当の末路を思うと、胸が締め付けられる。
前半、クミコは『ファーゴ』をビデオで見ている。
画面の下の方が波打つ画像の悪さ、ゲームソフトみたいにテープにフーッと息を吹き掛けたり、テープがデッキに絡まったり、凄いよく分かる!
妙な所で共感してしまった。