「【”楽園への船出を求めて・・。”5年振りに出所した麻薬王の男が見た、仁義もなき変わり果てた世界の中で、必死に愛する女と”新たなる楽園”を目指す時代の潮流に乗ることを拒否した男の姿が心に沁みる逸品。】」カリートの道 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”楽園への船出を求めて・・。”5年振りに出所した麻薬王の男が見た、仁義もなき変わり果てた世界の中で、必死に愛する女と”新たなる楽園”を目指す時代の潮流に乗ることを拒否した男の姿が心に沁みる逸品。】
■30年の刑期で投獄されていた麻薬王カリート(アル・パチーノ)は、親友の弁護士デイヴィッド・クレインフェルド(ショーン・ペン)の尽力で5年で出所する。
カリートは刑務所に居た5年の間に、仁義もなき街に変わっていたニューヨークに見切りをつけ、かつての恋人ゲイル(ペネロープ・アン・ミラー)とよりを戻し、二人でバハマのパラダイス島過ごす夢を叶えるため銃を撃たずに必死に堅気の日々を送る。
そんな中、5年の間に増長し、人が変わっていたデイヴィッドがカリートに且つて自分を馬鹿にした男への復讐をする、危険な依頼をする。
◆感想<Caution!内容に触れています。>
・冒頭、イキナリ、カリートが何者かに腹部を撃たれるシーンから始まる。故に観る者は、カリートの辿る道を想像しながら、この映画を鑑賞する事になる。
・カリートを演じるアル・パチーノが、ニューヨークのマフィアたちの生き方の変化を敏感に察知する様を、目の動きと彼のモノローグで伝える手法が斬新であり、且つカリートが麻薬王として、君臨して来た理由が伺える。
・だが、麻薬の取引の使い走りの少年がアッサリと非常にも殺されるシーンを目撃したり、かつての恋人ゲイルが、ストリップショーで働いて居たり、デイヴィッド・クレインフェルドが酒に酔うと、危険な香りを漂わせる事で、カリートは街がたった5年で変容した事を理解し、マフィアの世界から足を洗おうとする。
この辺りのアル・パチーノの、驚きと物悲し気な表情が作品に趣を与えている。
・カリートが、親友であったデイヴィッド・クレインフェルドの自分への裏切りや、5年の間に行っていたマネーロンダリングなどの悪事の事実を警察に告げられるシーンからの、彼が自業自得でマフィアに襲われ、病室に収容されている所にカリートが訪ね、デイヴィッド・クレインフェルドが隠し持っていた銃から、銃弾を密かに抜いてゴミ箱に捨てるシーンと、デイヴィッド・クレインフェルドがマフィアの刺客に撃ち殺されるシーンの、カメラワークは見事であり、且つ二人の友情が終わった事を示すシーンでもある。
■グランド・セントラル駅でのカリートを追うマフィアたちとの攻防のシーンは、それまで比較的抑制して来たアクションシーンが、全開で映し出され、緊迫感も凄い。
<そして、カリートは漸く待ち合わせていたゲイルが待つ列車に到着するが・・。彼が、担架で運ばれる時の哀しきモノローグと、彼の末期の表情を真上から捉えたカメラワークは、この哀しき作品を彩る哀しき名シーンであろう。
今作は、宿命に抗い、楽園への脱出を夢見る、時代の潮流に乗ることを拒否した男の、哀しき物語なのである。>