東京の日のレビュー・感想・評価
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安易な受け答えは相手の怒りを買う
主人公の男は、身の回りの誰に対しても八方美人の様に対応する。
いわゆる【いい人】で間違いない。
しかし、その八方美人振りが逆に相手の怒りを度々買ってしまう。
曰く「一体何考えてるの?」と。
実は画面を見つめながら何度となく「そう言えば、その昔に何回かこんな事があったっけ…。」と身につまされた。そうか、俺も八方美人だったんだなあ(汗)
俺もそうだったのだが。この映画の主人公も、この映画で相手の女達がついつい激怒してしまった理由はおそらく分からないはず。
自分は<よかれ>と思っていても、その対応は相手にすれば「え?馬鹿にしてるの?」…と。
池田監督の『東南角部屋二階の女』繋がりで、香川京子さんが出演している。
彼女が彼に尋ねる。「何している人?」
彼は「バイトです」と答えると、すかさず「まあ頑張りなさい!」と、辛辣な一言。
年配者にとって、ある年齢に達しながらもバイトと言うのは、やはりだらしがないイメージなのだろう。
バイト先の女性店長が「ちょっと休みたい」と語り、暫く休みになった時。彼はやっと将来に対し、自分と向き合い始めたのだと思う。
そのキーワードとして部屋に置いて有るが、今はパンクしてしまっている自転車。
時間が有り余ってしまい、意を決して自転車屋に行く。
その結果行動範囲は広がるのだが、まだ彼は色々と迷っている様に見える。街中にある階段を前にして、ただ自転車でグルグルと廻るだけだ。
この映画では階段が度々画面に登場する。
街中の階段。
渡辺真起子が切り盛りするスナックの階段。
自宅アパートに上る階段。
その階段を上から前からと、何度もカットを替えては撮る。
この主人公は、絶えずこの階段でタバコを吹かしては物思いにふける。
そのほとんどは後ろめたい感情があったり、他人事に巻き込まれるのを拒否しているかの様だ。
スナックの階段で座り込むのは、前回香川京子さんに辛辣な一言を浴びたからかも知れない。しかし渡辺真起子からもチクりと一言(苦笑)
謎の同居人だった彼女は、ある決意を持って東京に来ていた。
その決意を見届けた彼は、やっと決断する。
何度も何度も画面に映る、仕事場へと向かう曲がり角。
これまでは右から左へ。左から右へ。自宅と仕事場の往復を歩くだけだった。
その曲がり角を自転車に乗り、坂道を立ち漕ぎで走り女性店長へある決意を告げる。
香川京子さんからの質問には「何やってるんですかね〜」と一見呑気な答えだが、彼女は「これからよ、これから!」と、祝福しているのか?どうなのか?
まだキャリアは浅い池田監督ですが。男性を主人公に据えながらも、そのだらし無さや優柔不断な面を強調。対して女性達も、突然豹変する本音と建前の姿を辛辣な観察力で描写している。
今後は題材によっては大きく化ける要素が有る監督さんかなと思う。
でもこの様な題材での、小さい世界をほじくり返す事に長けているのかも知れませんが(笑)
東京を象徴する建物として東京タワーが度々画面に映る。
時代が変わりスカイツリーの人気挙がっても。やはりあのオレンジ色の暖かみは、田舎から東京の大都会に出て来た人にとっては。孤独感を癒してくれているのだろう。
正にオレンジ色の憎い奴!
(2015年11月12日/ユーロスペース/シアター2)
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