デッドプール : 映画評論・批評
2016年5月24日更新
2016年6月1日よりTOHOシネマズ日劇ほかにてロードショー
珍ヒーロー爆誕!超過激な“赤の旋風”が、正義の概念をこっぱみじんに破壊する。
異色も異色。だってこのマーベル映画の新キャラ“デッドプール”ときたら、正義や人助けになど興味の欠片もないご様子で、あくまでマイペースに個人的な復讐計画をコツコツと実行。いざ敵との対決が始まれば息つく暇なくバイオレンスとギャグを繰り出し、その間もおしゃべりが一向に止まらないどころか、ついには観客に向かって語り出す始末。いったい彼のどこがヒーローなんですか!
そもそも本作はストーリー構成だってかなり変わっていて、主人公がデッドプールと化した経緯も、まさに戦闘中の脳裏をよぎる“思い出話”として語られていく。ざっと言うと、末期ガン宣告を受けた元特殊部隊員が、なんとか健康的な肉体を取り戻そうとすがった組織にミュータント遺伝子を注入され、いちおう不死身の身体となったものの、しかし恋人との再会をためらうほど無惨な外見と化してしまい……。
そんなわけで、真っ赤なコスチュームで身を隠した彼は、組織の人間をかたっぱしから葬り去る復讐の鬼と化し、今まさに銃弾飛び交うハイウェイで死闘を繰り広げているのである!
とはいえ、本作に仕掛けられたフックの多さは眩暈を覚えるほど。ほんの一瞬の跳躍にコミカルな身のこなしと小気味の良いアクションを挟み、なおかつバイオレンスと禁句と性表現というお子様NGの下世話な3要素を間髪入れずに全てぶち込む。そんな器用なのか無作法なのか言い表せぬ芸風が、おかしなことに観客をグイグイと惹きつけてやまない。
もちろんこの原動力には今回プロデューサーも兼任した主演ライアン・レイノルズの存在があるのだろう。ご存知のように、過去にヒーロー映画との兼ね合いで地獄を見てきた彼が、それでも諦めずに実現させた本作。それゆえの全くの怖いものしらず。まるで崖っぷちでハイになったみたいに何でも盛り込む。そんな大胆さが実に気持ち良い。
さらに脚本も気が利いている。アメコミ、映画、モンティ・パイソン、ワム!をはじめ膨大なカルチャーを果敢に引用しながら、観客が分かっても分からなくても一向にお構いなし。要所要所にはX-MENとの関連性もしっかりと描かれ、もう溢れてはみ出すくらいに餡がぎっしりと詰まっている。
映画界は右も左もヒーローばかり。そんな過渡期にあって不意に見舞われたカウンター・パンチ。頭のスイッチの切り替えは多少必要だが、どうかひとつ広い心で、この未体験のハイテンション・ヒーロー・コメディ、とくとご堪能あれ!
(牛津厚信)