「ラップで闘ったキセキ」ストレイト・アウタ・コンプトン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
ラップで闘ったキセキ
今尚多くのアーティストに影響を与え続ける伝説のヒップホップグループ“N.W.A.”。
またまた自分の無知をさらけ出すようで恥ずかしいが、このグループについて全く知らず。
メンバーのアイス・キューブが元ラッパーだった事は知っていたが、役者でしか見た事ないというくらいのレベル。
映画はN.W.A.の結成~栄光~不協和音~解散~その後を描いた一通りのサクセス&伝記モノの形ではあるが、この作品がこんなにも胸熱くさせてくれるのは、彼らの魂の訴えが込められているからだろう。
ストリートギャングってだけで目の敵のように横暴な権力を奮う白人警官たちには憤りを感じた。
映画だから大袈裟に脚色されているかも…いや、「フルートベール駅で」で描かれた事件もあった。
どうしてもストリートギャングの印象が宜しくないのは拭いきれない。
これは酷い偏見かもしれないが、劣悪な環境で育った黒人青年の多くは犯罪の道に進んでしまう。
生まれてきた性か、周囲の影響か。
一歩踏み外せば犯罪の道に堕ちる危うい綱渡りを、彼らはラップで渡り切った。
ラップに、警察の横暴、黒人への差別、社会への鬱憤・不満をぶつけた。
過激なその歌詞はFBIにもマークされる事になるが、それは、血も怪我人も出ない“非暴力”としての最大の攻撃、最大の武器。
ラップが禁止されている場でラップを歌ったり、挑発的でもある。
人の鑑になれるとはとてもじゃないけど言えやしない。
でもただのルール破り、マナー知らずなどではない。
彼らはあくまで権力と“闘っている”のだ。
自分はチキンなので上からの押さえ付けには従ってしまう。
だからこういう作品を見ると、言いたくても言えない日頃のモヤモヤした気分を代弁してくれてるようで、スカっとさせてくれる。
詳しい方は知ってるが、終盤、メンバーの一人が…。
一度は分裂したメンバーの絆に、図らずも目頭を熱くさせる。
若いキャスト全員が、メンバーを熱演。
中でも、イージー・Eを演じたジェイソン・ミッチェルとアイス・キューブを演じたアイス・キューブの実子オシェア・ジャクソンJr.が印象に残った。
オシェア・ジャクソンJr.は父親のように役者としての今後の活躍にも注目。
「交渉人」ぐらいしか作品に記憶がないF・ゲーリー・グレイだが、実に見事な演出を披露。次は「ワイルド・スピード8」だ!
そして言うまでもなく、ラップが最高にクール!
ラップなんてほとんど馴染み無いが、こうして聞くと、どうしてどうしてこうも高揚させてくれる。
伝説の音楽グループの伝記映画ならば近年、「ジャージー・ボーイズ」があったが、あちらが作品の作りも真面目くんなら、こちらは異端児、もっと言うと不良。
その分、ビシビシビシビシ刺激的。
好みは人それぞれだが、「ジャージー・ボーイズ」より好きだ。
2時間半と長目だが、N.W.A.を知らなくてもラップに興味が無くても見応えあり。
全米では大ヒットしたが、日本では単館系での公開。
それが勿体ないくらいの力作!