永い言い訳のレビュー・感想・評価
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不器用で繊細でエゴが強い、でも、みんな持っている要素
邦画だからこそできる、繊細な心の描写とストーリーで、「泣く」といった単純な感情表現よりも、もっと複雑で苦しい幸雄の描写が生きた作品。
妻が事故で死んだ時、彼は部屋で不倫の真っ最中だった。愛も冷めていて、ただ、突然20年連れ添った妻が居なくなり、戸惑う自分がいる。
全く泣かず、それほど凹まず。作家のスキルを活かして葬式のスピーチはもっともらしく振る舞い、その後はネットでエゴサーチ。
人間の汚いところ、弱いところを巧みに演出している。
傲慢で偉そうに編集者に当たったり、モノを投げつけたり。
いるよなあ、こういう人。
でも、そんな一見最低の男である幸雄が、本当に根っからの悪いやつじゃなくて、彼なりの繊細さや優しさも持っている。
人一倍繊細で、傷つきやすくて、自尊心も強い、感情表現が苦手な不器用な人間なだけなのだ。
妻とともに亡くなった友人の一家で主夫として家事を手伝い、子供達とも仲良くなる。彼らの生活の中で支えになりながら、「人と交わること」で得られる温もりのようなものを思い出す。
そんな行為を、マネジャーからは「子供達の面倒をみるのは最高の免罪符だ」とズバリ指摘を受ける。
幸雄なりに妻の死は辛かったが、不倫もしていて最低な自分であるのもわかっていて、そんな状態を受け入れる、昇華するための罪滅ぼしなのだ。
とはいえそんな自分が、実は妻に愛されていなかったことが分かるメールが見つかり、さらに家族にとっても「要らなくなるかもしれない」というシチュエーションが出てきた。急に不安になり、不器用になり、本音だが言ってはいけないことをぶつけてしまう幸雄。
これまで素晴らしい関係を作ってきたのに、最後までどれだけ不器用なんだ…。
自暴自棄に再びなった幸雄だが、家族の危機に再度呼び出され、そこで素直な本音を。
「自分を大事にしてくれる人を大切にしないとダメだ。そうしないと、僕みたいに誰も愛せなくなってしまうんだ。」
なんという、脆く、そして確信的な一言。彼の不器用さは、やはり、そういった免罪符の中で生まれてきていたのだ。
最後は妻とのストーリーを本に書き、みんなと幸せになり、エンディング。本の中では「人生は他者」という一言。これも深い。
不器用な幸雄が、人と関わり始めるような一歩目なのだろうか。でも、結局ヒトは人と関わり合わないと生きていけないのだ。どんなに不器用で繊細でも…。
憂だ感じや、感情表現がとつとつとしているところ、妙に男前なところ含めて、モッくんが最高にハマリ役だった。
竹原ピストルさんや子役の2人も上手い。
すごく、よい映画。
期待以上でした。
よかった。
救いようのない話かと思ったけど、ほっこりしたり、救われたり。子供たちがかわいい。たしかに免罪符だわ。
しかしながら、浮気って、ということを悶々と考えてしまう帰り道。ひとかけらも。て重たい。でもそれで吹っ切れたんじゃないかと思う。キツい言葉が逆に優しさだわ。
オンブラマイフ、手嶌葵ちゃんだったか。
ほっこりして、泣ける
永い言い訳、短い本心
西川美和が自身の小説を映画化。
バス事故で妻を亡くしたのに悲しめない男を描く。
孤独、空虚、苦悩…心情に深く迫るさすがの演出、語り口。
今回も一つのテーマから人間を掘り下げ、見応えのある人間ドラマに仕上げている。
著名な作家としてTVにも出ている幸夫。
彼がかなりの最低人間。
性格は卑屈。上から目線で相手を見下す時あり。
妻が事故に遭った時、愛人を抱いていた。
心有らずの葬式の弔辞。TVを意識してか泣いたフリ。
喪中に豪遊したり、また愛人を抱く。
花見の席で大荒れ。
…などなどだが、何より涙を流せなかった。
でも何か画に書いたような最低の人間って感じじゃなく、悲しみや喪失といったものを何をどう表していいのか分からないという感じがした。
そんなある時出会ったのが、妻の親友の遺族。
トラック運転手の陽一と、幼い兄妹の真平と灯。
陽一は幸夫とは逆で、妻を失った悲しみを隠さない。遺族への説明会では怒りをぶちまけ、幸夫の前で何度も何度も涙する。
ひょんな事から幸夫は、トラック運転手として家を空ける事の多い陽一に変わって、幼い兄妹の面倒を見る事になるのだが…、
何故かここがちょっと面白い。
慣れない“主夫”に悪戦苦闘。
家事、送り迎え、子守り、頭のいい真平の勉強を見てあげたり…。
不思議なもんで、序盤で心空っぽに見えた幸夫が優しいおじちゃんに見える。
この時どんな意図でやってたのかそれは分からないが(次作の執筆の為、何らかの罪滅ぼし、本当に手助け)、でも子供たちと接してた時の顔はまんざら嘘でもないだろう。
(何だか素のもっくんを見てるようだったけど)
妻を失った悲しみの温度差に違いはあれど、同じ境遇の残された者同士が、また穏やかな日常と心の拠り所を見つける。
…それも束の間、
ある日幸夫は、妻の遺品のスマホに残されてたある文を見て衝撃を受ける。
陽一にはちょっとした出会いが。
幸夫が陽一たちと親交を深めたのは、彼らを通して悲しむという事を知る為もあったかもしれない。
が、陽一はドン引くくらいのイジイジ、イジイジ。
長男の真平は幸夫と同じく葬式で泣けず、複雑な内面の持ち主。
そこに、突然の疎外感。
皆と囲んだ夕食の席で酔っ払った勢いで本心とも言える事をぶちまけ、幸夫の孤独や苦悩はさらに深まっていく…。
突破口となったのは、真平。
真平が父親に抵抗を感じていたのはすぐ分かったが、ある時父にキツい本心をぶちまける。
その直後、陽一は事故に遭う。
幸夫と真平は陽一を迎えに行く中で…
真平は、自分なのだ。自分と同じなのだ。
母親を失って、悲しいのは悲しい。しかし、その悲しいという感情をどう表していいか思い悩んでいる。
かと言って、父みたいになりたくない。それを恥じている。
毅然としているが、実は今にも壊れそうで、脆く、弱く、繊細。
つい周囲にぶちまけてしまう…。
真平と対した時、幸夫は最もらしい事を言う。
それは自分にも通じる事、自分に言っていたのではないか。
この幼い自分が、自分のようにならないように…。
本木雅弘がさすがの名演技!
嫌悪感、滑稽さ、憐れみ、それでいての人間味…それらを的確に体現。
やっぱり巧いね~。
本作を見るまで、竹原ピストルをほとんど知らなかったが、パワフルな存在感。
時々危なっかしさを醸し出しつつ、愛嬌もたっぷり。
本業はミュージシャンらしく、どうでもいい事だけどTVドラマ「バイプレイヤーズ」のエンディングソングが絶品!
何つっても、二人の子役が巧い!
本木雅弘も竹原ピストルも巧いが、真平役の藤田健心くんの巧さは随一!
灯役の白鳥玉季ちゃんは素というか、ドキュメンタリーを見てるようなナチュラルさ。
短い出演ながら妻の存在をずっと感じさせる深津絵里、池松壮亮のいつもながらの好助演。ところで…、黒木華ってああいうラブシーンNGとか言ってなかったっけ…??
人の悲しみはそれぞれ。
幸夫の苦悩。
陽一の素直さ。
真平の葛藤。
それぞれがそれぞれの悲しみの中で、喪失からの再生を見出だす。
西川作品の中でも、ポジティブなメッセージを感じた。
泣いたから悲しんでいる、泣いてないから悲しんでないなんて、言いがかりだ。
自分は母が死んだ時、泣かなかった。
元々泣くような性格ではないのだけれども、ああいう時涙というものを見せたくないのだ。
勿論、微塵も悲しんでない訳なんかではない。
今もふとした時母の事を思い出すし、自分なりにずっと母の死を悼んでいる。
“永い言い訳”の後の“短い本心”こそ、グッと心に響いた。
凄い子役
キャストがぴったり過ぎ
一寸先は分からない
再生の話でも、懺悔の話でもなかった。
ましてや、愛の再確認とかの話でもない。
生きていくって話だった。
自分の時間は進むのだ、と。
後悔も幸福も、全てひっくるめて流れて、過ぎていくものだと。
奥さんの親友の遺族に触れ合うようになって、楽しい時間を満喫する主人公。
そこには妻への執着のカケラもない。
自分の母性とか性同一性障害でもあったのかと思う程活き活きしてた。
物語は、妻に対する何かではなくて、ほぼ、この家族との新しい時間が描かれていく。
その中で、時折差し込まれる台詞が刺さりはするが…主人公は楽しそうだ。
なぜ、監督はこういうテイストにしたのだろうかと考えてしまう。
永い言い訳とは、どういった意味なのだろうか?
永いって単語だけで、物理的な長さではなく時間的な長さを想像してしまう。
これから死んでいった妻に言い訳をするのだろうか?人生を通して。
誰に対してのものなのだろう?
ラストは妻の遺品を片付けるカットで終わる。
携帯の衝撃的な一文が真実かどうかの答えもなく、彼が何に寄り添うのかの兆しもない。
このラストから思うのは、やはり愛などという感情は妻に対しては芽生えておらず、親友家族への未練を感じてしまう。
なんていうか、それだって日常なのだ。
人の死なんてイベントは珍しい事ではない。
必ず訪れる。
最後、妻が愛用していたハサミを手に取る。
ようやく、ここにきて、亡くなった奥さんへの興味が沸いたようにも見れる。
今、この時から、彼はナレーションと時に語った「妻の死と共に生きていく」って調べだけだった言葉を実践していくのかもしれない。
というか…きっとここからが永い言い訳の本編なんだろう。
彼が、これから他者と関わる人生を選んでいき、その都度、妻の面影を感じる「ほら、だから言ったじゃない」そんな事への言い訳をずっとしながら今は亡き妻とともに歩んでいくのであろう。もしくはもっと重たい十字架なのか。
だから、「永い」って言葉であったり「言い訳」っていう他者を必要とする言葉だったりするんだな。
うん、勝手に納得。
物語には長い時間が設けてあり、親友家族と過ごしていた時、主人公はふくよかで、母親と見紛うばかりであった。
小説を出版する頃には痩せていて、浮足立つ事もなくなったようにもみえた。
本木さんの演技は、やっぱ好きだなあ。
黒木華や池松壮介も出てたけど、なんつうかステージが違うというか…同じ次元ではなかったようにさえ思う。
美しい
キャッチコピーはウソかもしれないが
妻をバスの交通事故で亡くした落ち目の人気作家、衣川幸夫。その妻の友人の旦那で共に事故で妻を亡くした境遇のトラックドライバーの大宮陽一とその2人の子供、真平と灯。
2つの家族が寄り添い、傷を癒していく様子と妻の喪失という現実をどう受け止めて生きていくのかを描いた作品。
まず残念ながら今作品のキャッチコピーはウソだ。妻の夏子が死んでから愛し始めたといった内容だが幸夫が妻を愛していたことを再認識したような描写は最後の最後まで見受けられなかった。
夏子の遺品を整理する中で見つけた彼女のスマホ。そこに残されていたメールデータから彼女は自分のことを愛していなかったことを悟る。
例えばこの上記のシーンまではもしかしたら幸夫は夏子のことを愛していたかもしれない
大宮家と触れ合う仲でもしこの場所に夏子が居てくれたらと思うような切ない幻想シーンも確かにあったが幸夫が夏子を思うシーンはせいぜいそれぐらいだったように感じた。
だから本筋に子どもとの触れ合いの日々を持ってくる演出がズルかった。
観る前はキャッチコピーの通り普段冷たくあしらっていた妻は自分のために実はこんなものを用意してたり、実は他人にはこんな風に夫のことを話してたりといった妻の心遣い的なものが彼女の死後次々と発覚し、悲しみにくれて懺悔して生きていく男を描く的な内容かと思っていた。
実際は普段は偉そうに踏ん反り返っては酒に溺れ、家事もロクにしたことがないわ、自宅に不倫相手を連れ込むだのとクズっぷりを晒していた幸夫が大宮家の子どもたち2人と一緒に料理を作ったり食べたり、勉強したりととても人間的な面を覗かせ、終いにはすっかり懐かれた真平と灯から幸夫くんと呼ばれる仲にまでなり、母親代わりのような存在として大宮家と関わっていく幸夫の再生劇が本筋である。
この手の作品はズルい。だいたい良い笑。
歳とるごとに子どもの話に弱くなる。だからきっとこの作品もそれなりに歳をとった方が好きだと思う(失礼)
物語の中で誰よりも共感できなかった幸夫が1番共感できる人物に徐々にかわっていく描写は見事。
本木雅弘の、突然現れた化学の鏑木先生と大宮家の距離が縮まっていき、疎外感による嫉妬と酒に任せた勢いで大宮家との間に溝が出来てしまう情けないながらも死ぬほど気持ちが分かる演技が素晴らしかった。
ラストシーンの切なさも良かった。
どんどん味が出る映画
主人公の幸夫の感情、最初よくわからなかった。
が、物語の進行につれてどんどんはっきりしてゆくっていう感じはすごかったー
初めて身近の人を失い、初めて自分はダメ人間fsと自覚するとき、死んだ人はずるい、残された人だけ苦しいと知ってるはず。
初めから感情のない妻が、一番最悪な時期で「私」を離れて死んでいった。
それで、妻へ感情を持たない幸夫は、逃避を選ぶことで自分の無用さからも逃げようとしている。
同じく逃避を選んだのは大宮真平もそうだ。母の死を意識しながら、それに立ち向かうより、前に向かって進もうとしている彼。
その対照になるのは、真平のお父さん。彼は妻の死の悲しみから抜けられない。
小さな娘のあかりも含め、四人は家族の離れに全く違う姿勢を取っている。
一体どっちの方が強いのだろう。答えるのは難しいかもしれない。
ただ一つは、自分を受け入れて前に進むこと。
映画の最後にはそういうことを伝えたいのだろう。
人はみんな他者だー。
だからこそ自分のそばにいてくれる人には、感謝しかない。
この点がわかった幸夫は、改めて妻を愛するようになる。
「人はみんな色々考えている」というようなセリフがあった。幸夫の心境の変化もそうだった。
だから観客もこの映画を見て色々感じることができるんじゃないかなーと。
死ぬことだけではなく、ものを失くすことも、この世にたくさん。
ただそんなこんなことにどう向き合うのは自分次第。
かなー
あと個人的な意見なんだが、唯一残念に思うのは、本木雅弘の演技、全体的にはいいが、若干硬く感じる。たまには訳わかんない表情もあったりしてーあるいは自分の読み取り方が違うかも!
そして大好きなのは、海辺のシーンの色彩が好き。目に焼き付けるような雰囲気になった。
また大宮家にいるとき、幸夫はあかりちゃんといるシーンが、カメラの揺れで生み出したリアルな感じが良くて感動的だった。
長い文、ゆっくりと考えさせられた。
愛し始めたのは、、、
映画館で本木雅弘のダメダメっぶりのみ強調された予告編だったが、本編はそうでもなかった。
そりゃ奥さんがバス事故死していた際不倫していたのは悪いけど、それは今まで「自分の居場所」を見いだせていなかっただけで、事故後の彼の行動=不器用ながら居場所や何かを見出そうと努力する彼の行動には釘付けになりました。
私としては、本木雅弘役の幸夫よりは、彼の廻りに関係する人達(一方的突っかかってくる奥さんの同僚や、奥さんが死んだ途端不倫を辞める相手役の黒木華、幸夫が情緒不安定の時に花見に連れて行き喧嘩する編集者の方々)の方がダメダメだと思いましたけど。
事故後、竹原ピストル演じる大宮陽一の家族や山田真歩演じる優子と触れ合い、言い合える場所を見つける幸夫。
ややいい訳が多い妄想家の幸夫ですが、廻りにその心を否定せず受け止めてやれる人間がいる事は羨ましい。
逆もしかり、幸夫も受け止めてあげている。
人間としての「器」の種類や大きさを考えさせてくれる作品でもある。
幸夫ばかりクローズアップしてきたが、廻りの人間が良くないとこれ程までに引き立たない。
一番の引き立て役は大宮灯(あかり)役の白鳥玉季ちゃんだろう。
ただのおませな子供あれば憎たらしいのだが、考えもあるしっかりした子供を演じている。
落ち着いた気分で映画を観れました。
最後に
「そして父になる」に似ていない。
奥さんが死んで、それを引きづる話ではない。
幸夫はそれ程ダメ人間ではない。
家族をテーマとしていない。
人は何かをきっかけとして変われる。
愛し始めたのは事故後の自分(幸夫)だ。
家族と在った日々
複雑な味わいのある作品で、主人公のダメ男・幸夫がダメなりに人生を掴んで行くプロセスや、陽一一家の好演など見所の多い映画だなぁという印象です。
家族について思いを馳せました。作品のテーマとまでは言えないところですが、家族と在った日々のことを考えさせられましたね。
現在はすぐに過去に飛び去ってしまう。家族とのぬくもりある日々もすぐに昔のこととなる。
でもそれは虚しいものではない。ぬくもりの瞬間は紛れもなく幸福であり、それは宝物として心の中に蓄積されていく。
幸夫は自分しか愛していなかった。妻を失った時、宝物は残っていなかった。不倫相手との甘い時間はただ過ぎ去るだけのものだった。
逃避かもしれないし、本物の家族ではなかったけれど、陽一一家との日々は彼にとって宝物になったのだろう。それは幸夫だけではなく、慎平や灯にとっても同じ。塾帰りの真平を待つ日々は、3人にとってかけがえのない大切なものになって残っていると思う。
そんな宝物を得た結果、幸夫は愛が壊れていた妻との間にも、実は宝物があったことに気づく。そして、最後は静かに向かい合おうとしていたように思う。
永い言い訳というタイトル通り、幸夫は本当に言い訳がましい。
だが、妻が経営していたヘアサロンに向かった時から、幸夫は言い訳をしなくなったように感じた。
素敵な映画でした。
人生は永い永い言い訳である
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