「心を抉るような鋭さと、深く抱きしめる優しさと」永い言い訳 ぐうたらさんの映画レビュー(感想・評価)
心を抉るような鋭さと、深く抱きしめる優しさと
突如の別れはどのように受け入れられるものなのか。遺された者はそこで何を感じるのか。
主人公が即座に感情表現できる人であれば本作は成立しえない。その分“サチオ”はうってつけだ。2時間かけてゆっくりと寄せる喪失の波。いやむしろ「一向に泣けなかった自分」についての探求の旅というべきか。その意味で彼は、最後まで己にしか関心のない人間だったのかもしれない。
しかしそれでも心に差し込む光の角度だけは、徐々に、確実に変わりゆく。妻への思いは曖昧だが、この先の生き方として、「他人との間」にこそ自分の現在地を見出していくような気配が見て取れる。そのことが何よりの尊さを持って胸に響く。
「オンブラマイフ(優しい木陰)」の調べに乗せ靄を進む列車は人生の縮図のようだ。共にいた人が下車し、新たな旅人と旅を続ける。そうやって木陰を求め人は彷徨う。西川監督はまたも、慈愛と切れ味が同居する演出で人生の本質をすくい取って見せてくれた。
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