「ラブストーリー」クリーピー 偽りの隣人 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
ラブストーリー
初盤の竹内結子、後ろ向きでセリフを発している場面がもの凄く多い。どんなつもりでどんな表情で言っているのか分からない。そこが気になって気になってしょうがない。
いや、当たり障りない日常会話なので分からなくて良いのかもしれない。西島氏演じる旦那さんも気にしていない。旦那さんは「事件」に夢中で奥さんのことなど眼中にない。(食卓で二人が向き合うシーンもあるが、視線があってないようにもみえる)。
旦那さんは誰のことも眼中にないのではないか。自己完結しており他人の話を聞いてるようで聞いていない。犯罪心理学者と言いつつも他人の心理に疎い。だから冒頭、殺人鬼の説得も失敗する。このオジさん何かの助けになりそうと近づいてくる若い女子二人(川口春奈・藤野涼子)も、オッサンが想像以上に使えない事を知り、川口春奈はイラだち拒絶、藤野涼子は最後、豪快に去って行く。
クリーピー=「変」なのは、お隣りさんだけではなく、旦那さんも充分「変」だ。そりゃ女子二人も逃げるわなと思う。
奥さんは、中盤お隣りさん側に囚われるが、夫というクリーピーから別なクリーピーに隷属が変わっただけという気がする。
奥さんは、クリーピー達から逃げたいんだね、と思いながらずっと観ていた。
だが、しかし、そうではなかった。
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監禁されている奥さんが旦那さんにクラッカー(?)を食べさせるシーンがあった。
このシーンの竹内結子、ウットリとした表情を浮かべており、この上もなくキレイで、映画の中で一番印象に残った。
後ろ向きだった奥さんが、夫と向き合う。しかも上から見下ろすような形で、見つめ合う。夫は奥さんの視線から逃れる事は出来ない。
奥さんが望んでいたのは、コレだったんだね。クリーピーから逃れたいのではなく、クリーピー夫を手中に収めたかったんだねと。こりゃ、ある意味、ラブストーリーなんじゃないかと思った。
(それが端からみて歪んだラブストーリーだとしても本作はクリーピーな人しか出てこないのでしょうがない。)
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奥さんは、せっかく理想の環境を手に入れたのに。「見つめ合わざるをえない状況」を手に入れたのに。
最後、夫は、余計なことをする訳だ。「オレがお前を守る」とか自分に酔ったような事を言って。
この環境を壊すということは、奥さんの理想の愛の生活が終わる、クリーピー夫の隷属に戻る、また後ろ向きの奥さんに戻るということだ。
そりゃ、奥さんも慟哭するしかないよね…と。
自分が変だと自覚がない夫の方が、お隣りさんよりある意味タチが悪いしなあ。新たなクリーピーライフの幕明けを告げる慟哭でもあり、奇妙なラブストーリーの終りを告げる慟哭でもあったなあと思う。
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追記:あくまでも個人的な感想なんで、別にラブストーリーのつもりで撮ったんじゃないかもしれん。壮大な勘違いの感想のような気もする。でもラブストーリーと思わせるほど、クラッカーのシーンの竹内結子さんはキレイだった。映像がストーリーに従属し説明するのではなく、ストーリーを壊しかねない突出したシーンだったなあと、個人的には思う。
今まで竹内さんが苦手だったのに、ここまで肩入れする自分が不思議。
竹内さんのあのシーンの妖艶さ・狂気は素晴らしいですよね
普段はすっごく手の込んだ料理を出してるのに、クラッカー。
いつもは良妻を演じてるけど、馬乗り。
竹内さんの役が一番怖いと思います。