さようなら(2015) : 特集
芸術×科学のコラボ──映画はついにここまでたどり着いた!
目利きの映画ファンに問いかける「生きること」と「死ぬこと」
人間と本物のアンドロイドが共演する平田オリザ演出の「アンドロイド演劇」が、「歓待」「ほとりの朔子」の気鋭監督・深田晃司によって完全映画化。世界初の人間&アンドロイド共演作「さようなら」(11月21日公開)の見どころに迫る。
■人間と実物のアンドロイドが共演した世界初の作品!
目利きの映画ファンに本作をレコメンドする5つの理由
映画ファン、とりわけ多くの話題作、時代の先端をいく実験的作品に触れてきた目利きの映画ファンに、なぜ本作をおすすめしたいのか。その理由をここに紹介しよう。
とにかく映画が好き、それも監督の作家性にあふれる個性的な映画や、エッジの利いた作品が好きという「あなた」にこそ、本作「さようなら」はおすすめしたい作品だ。新宿武蔵野館やシネマカリテ、渋谷のシネマライズやル・シネマ、ユーロースペースなど、厳選された作品が上映される劇場で、「Mommy マミー」(グザビエ・ドラン監督)、「ナイトクローラー」(ダン・ギルロイ監督)、「6才のボクが、大人になるまで。」(リチャード・リンクレイター監督)、「アデル、ブルーは熱い色」(アブデラティフ・ケシシュ監督)などに強くひかれてきた映画ファン。そんな、映画に独自の主義や主張がある人こそ、本作が目指した芸術と科学の崇高なコラボレーションに強いメッセージを感じ取れるはずだ。
本作が異彩を放つのは、人間をサポートするアンドロイド役として、アンドロイド研究の世界的な権威である大阪大学教授・ATR石黒浩特別研究所客員所長の石黒浩が開発した本物のアンドロイド「ジェミノイドF」が出演していること。石黒は、バラエティ番組「マツコとマツコ」に登場したマツコ・デラックスを模したアンドロイド「マツコロイド」の制作者でもあるのだ。
監督を務めた深田晃司は、10年の「歓待」で東京国際映画祭・日本映画「ある視点」部門作品賞、プチョン国際映画祭最優秀アジア映画賞を受賞したほか、13年の「ほとりの朔子」(二階堂ふみ主演)でナント三大陸映画祭グランプリ&若い審査員賞のダブル受賞、タリン・ブラックナイト映画祭最優秀監督賞を受賞した人物。海外から熱い視線を集める気鋭の映画監督だ。
原作は、劇団・青年団を主催し、日本を代表する劇作家として知られる平田オリザが、石黒浩氏と共同で進めてきたアンドロイド演劇プロジェクト「さようなら」。人間の俳優とロボットを舞台上で共演させるという画期的なプロジェクトはヨーロッパや北米、アジアなどでも上演され大きな話題に。10年の初演ではわずか15分の演目だったにも関わらず、その完成度は世界に衝撃を与えた。
目まぐるしくカットが切り替わり、スピーディに物語が進んでいく昨今の映画のスタイルとは逆行するかのような、たっぷりとした余韻を含みつつ、静かに物語が進行していくのが本作。最初は驚くかもしれないが、それは移ろいゆく時間や光を捉え、静かに崩壊していく世界を表現していることに気づくはずだ。どこか神々しくもある、圧倒的な映像美から目が離せない。
東京国際映画祭では、受賞経験に加え、アジアの風部門の審査委員を務めた経験を持つ深田監督。本作では、コンペティション部門に選出されるという快挙を達成した。さらにアンドロイド・レオナ役を演じたジェミノイドFが、最優秀女優賞にノミネートされるサプライズも。作品、そしてアンドロイドの演技が確かなクオリティを備えているという証明だ。
■舞台は、放射能に汚染された近い将来の日本──
人間とアンドロイドの「最期」を見るとき、あなたは何を感じるか?
原子力発電施設の爆発によって、放射能に侵された近未来の日本。国土の約8割という深刻な放射能汚染により、政府は「棄国」を宣言。計画的避難体制の下、国民は徐々に国外へと避難することとなっていた。そうした光景を横目で見ていたのが、避難優先順位が下位のために街に取り残されたままの南アフリカ難民ターニャ(ブライアリー・ロング)と、病弱な彼女を幼いころからサポートしてきたアンドロイドのレオナ(ジェミノイドF)。友人の佐野(村田牧子)、恋人の敏志(新井浩文)らが、ターニャたちのもとを訪れては通り過ぎていく。ほとんどの人々が消えていくなか、ターニャの身体は病にむしばまれていき、ついに最期の時を迎えることになるが……。
自然と光の美しさを圧倒的な映像美で映し出しながら、本作は「生と死」という誰もが避けられない永遠のテーマを見つめていく。人間という命に限りがある存在と、アンドロイドという永遠を生きる存在の対比を目撃することによって、見る者は生きることとは何か、死とは何か、そして時間とは?と考えられずにはいられなくなる。ターニャの最期の時をレオナが見つめる終盤のシーンは、舞台では不可能な映画ならではの表現が駆使される。大きな余韻が待つラストシーンとあわせて、あなたの心に何かを残すのは確かだろう。
■人間とテクノロジーの関係を見つめ続ける作家・ジャーナリスト
佐々木俊尚が見届けた「さようなら」とは?
人間とデジタルテクノロジーの関係性について造詣の深い作家・ジャーナリスト、佐々木俊尚氏が本作を鑑賞。果たして、人間とアンドロイドの共演はどのように映ったのか。