劇場公開日 2015年11月14日

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「古風で実直な作りがシビれる、中世版『忠臣蔵』 [誤記修正]」ラスト・ナイツ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0古風で実直な作りがシビれる、中世版『忠臣蔵』 [誤記修正]

2015年11月24日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

興奮

知的

紀里谷監督作品のファンには大変申し訳無いのだが、
レビュー載せてないからといって手の平を返したように誉めるのもフェアじゃない気がして厭なので
最初にはっきり書いておくと、僕は紀里谷監督の『CASSHERN』と『GOEMON』が大嫌いである。

そもそも僕はCGで華美に飾り立てて誤魔化したような映画が好きではないし、
そんな身からすれば、役者の演技やアクションすらCGで補強する真似など言語道断だ。
そのCGの出来さえイマイチであれば、益々アンリアルで滑稽な映像に見えて薄ら寒い。
深刻そうな顔をするばかりで少しもエモーションを刺激しない
薄っぺらな台詞やドラマが合わさった日にはもう目も当てられない。

と、最初の数行でボロクソ書いておきながら、次にこう続けることを許してほしい。
『ラスト・ナイツ』は良かった。非常に良かった。
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原作のある物語を別の世界観へ換骨奪胎する試み自体は監督がこれまでも行ってきたことではある
(今回は『忠臣蔵』を中世風の世界観に置き換えている)。
悪びれずに言わせてもらえば、役者陣の重苦しい表情も同様だ。

だが今回は、
CGの使用を極力抑え(どこで使われているかは殆ど気にならないレベル)、
実力のある役者陣の演技やアクションを誤魔化すような真似もせず、
剥き出しの感情を登場人物達が吐露する野暮な真似もしない。表情でそれらは語られているからだ。

“沈黙を学べ、我が友よ。言葉は銀に等しいが、時を得た沈黙は純金にも等しい”。
『ラスト・ナイツ』は、監督の過去作とは比べ物にならないほど、
映像言語としての説得力が格段に増しているのである。
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適材適所な役者陣が揃ったことも間違いなくそれに貢献している。

人間臭くも高潔なモーガン・フリーマン、柔和な表情で苦悶を押し殺すアン・ソンギ、
実直な副官クリフ・カーティス、ひたすらに堪え忍ぶアイェレット・ゾラー、

そしてライデンを演じたクライヴ・オーウェン。
主君の名誉、そして国や部下を守る為に、最も自分を殺した男。
堕ちる所まで堕ちたように見えた彼が力強く甦る様には背筋がゾクゾクきた。
ラストカットの、真っ直ぐに前を見据えた目の輝きも忘れ難い。

相対するは伊原剛志だ。
主人公ライデンに騎士として敬意を払い、彼が落ちぶれる様に複雑な表情を浮かべ、
不実な主君に耐えながら、最後は正々堂々と1対1で勝負に挑む。
闘いの前に一礼する姿や、倒れた相手が立ち上がるまで待つ様など、
騎士であり武士である彼はとんでもなく魅力的な好敵手だった。
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惜しむらくはアクションシーンか。
いや、今時ワイヤーアクションにすら頼らない剣劇アクションの数々は実直で良いし、
討ち入りシーンでの深く静かな潜行戦なんてスムースでスマートで惚れ惚れするほどだ。
問題は、音。
剣と剣、鎧と鎧が激しくぶつかり合う音に今ひとつ迫力が無いと感じる。
感情を高めて高めて遂に爆発するテンションを、戦闘の音が削いでしまっている。

また、数多くの騎士達の中にも印象的なキャラクターはいるのだが、
暗がりでしかも西洋風の顔立ちだと見分けが付き辛かったのも難点。
(洋画ばっか観てる自分でも、である)
風貌などにもっと差異を付ける等、各キャラのインパクトを強めて欲しかった。
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以上。
時流に乗った大作ではなくクラシカルな中規模作品という印象は強いし、
良く言えば実直、悪く言えば地味な出来だ。
華美で大スケールのアクションが溢れる今の時世においては、売れる映画ではない。

だが、それがどうした。
IMDbやRotten Tomatoesでの評価が低い? クソ食らえ。
奇をてらわない語り口で全く飽きさせずに物語を語るというのはなかなか出来ないことだし、
ここまで練りに練られていたのかとクライマックスで唸る流れも、その実直さあってのサプライズだ。
僕はこの映画が好きだし、この映画はもっと評価されるべきだと思うし、
そして海外にもこの映画を評価してくれる人は間違いなくいる。

繰り返し、手の平返しなレビュアーの言う事だが、紀里谷監督の次回作を楽しみにしている。

<2015.11.22鑑賞>
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余談:
誤記修正。
×紀利谷→○紀里谷 でした。
過去作ボロクソ書いた上に名前まで間違えるってウォイ。

浮遊きびなご