劇場公開日 2016年2月5日

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「当たりの方のスコット監督作品」オデッセイ アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5当たりの方のスコット監督作品

2016年9月8日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

興奮

知的

2D 字幕版を鑑賞した。不運な事故によって火星に一人取り残されてしまった宇宙飛行士が,生還のために知恵を尽くしてサバイバルを繰り広げる異色の SF 映画である。原題は原作小説と同じ “The Martian (火星の人)” であり,これに「オデッセイ (Odyssey)」と別なタイトルを付けているのはどうやら日本だけのようなのだが,むしろこの邦題の方が内容に合っているような気がした。Odyssey は,古代ギリシャの詩人ホメロスの叙事詩を起源とする言葉で,「長い放浪からの帰還」といった意味があるからである。あの名作「2001 年宇宙の旅」も,原題は “2001: A Space Odyssey” である。

火星上の映像は,ほとんどが CG なのだろうが実にリアルで,細部まで神経の行き届いた画面は,動く絵画を見ているようであった。火星で1人だけ残されてしまう原因が,猛烈な砂嵐に起因するものなのだが,そもそもあんな猛烈な砂嵐が起こるほど濃厚な大気が火星上にあるわけがないので,かなり無理があると思った。予告では「水なし,酸素ほとんどなし,通信手段なし,食料 31 日分…」とアナウンスがあるのだが,ちょっと話を盛り過ぎではないかという気がした。ソーラーで電気エネルギーが使えるので,室内であればサバティエ反応と水の電気分解を使って火星の大気の CO2 から O2 を作ることが出来るはずだし,O2 ができれば,ロケット燃料は H2 を多く含むので H2O も大量に作れることになる。映画の中でもこうした方法で次々と課題をクリアして行く過程は非常に理に適っていて見応えがあった。

原作は描写が非常に緻密で,まるで自分がその場にいるかのような錯覚に陥るほど面白く,読み応えがあったが,物語の盛り上げ方は,一部を改変した映画の方が上だったように思う。この映画を観た感想としてまず思うのは,とにかく主人公が実に前向きで,いかにもアメリカ的に明るいことである。設定や道具立ては「ゼロ・グラビティ」に通じるものがあるのだが,どう考えても迂闊過ぎるだろうと言う間抜けな行動が目に余った「ゼロ・グラ」とは違って,実にしっかりした行動に好感が持てた。宇宙でたった1人で取り残されたのに,パニックも起こさないのはおかしいという意見もあるようだが,NASA では,人選の際に各種の人物テストを嫌というほどやらされて,孤独な状況に陥った時にパニックを起こすような人物と判断されると宇宙飛行士には選出されないという話である。

役者は,主演のマット・デイモンをはじめ,チョイ役に至るまでかなりの演技派を揃えてあり,これは流石にリドリー・スコット監督の人脈によるものだろうという気がした。「ロード・オブ・ザ・リング」でボロミア役を演じたショーン・ビーンが,秘密の会合を「エルロンドの会議」と言っていたのには笑った。「ロード・オブ・ザ・リング」第1作で,指輪の処分法を決定した秘密会議の名前がエルロンドの御前会議だったのである。脚本家が気を利かせたファンサービスであろう。:-D

物語の設定で,女性船長の音楽の趣味が 70 年代のディスコミュージックということになっていて,火星に残された音楽と言えるものは,船長の置き去りにしたノートパソコンに入っていたそれらしかないという状況のため,本編中に流れる曲はほとんどそればかりであった。まず流されたのがセルマ・ヒルストンの “Don’t Leave Me This Way” だったのに笑った。「置いてかないで」という歌詞は映画の状況そのまんまである。次に流されたグロリア・ゲイナー「恋のサバイバル」には “I’ll survive” というまさにドンピシャの歌詞が出て来た。だが,何故か字幕には歌の歌詞が出て来なかったので,分かる人にしか分からない状況に陥っていたのが残念だった。そうした曲の中にデビッド・ボウイの “Starman” も入っていた。これはアメリカでの公開時期を考えると,訃報とは無縁の最初からのアイデアだったはずなのだが,つい勘ぐってしまうほどタイムリーな選曲に聞こえた。

演出上,気になったのは,あの土の深さではジャガイモは育てられないのではないかということとか,ローバーでの長距離移動中に排泄はどうしていたんだろうとか,宇宙服に穴を開けて空気を吹き出してしまったら,減圧で気絶してしまうんではないだろうかとか,やはり細々とした現実的なことが気になった。また,着陸船の倒壊の危険性をあれだけ煽りながら,はるか昔の着陸船が微動だにせず直立していたというのもかなり拍子抜けであった。さらに,アメリカが宇宙事業で協力を求めるなら,相手国はまずロシアであって,あの国には頼まないだろうというのが気に入らなかった。だが,この作品でのスコット監督は,間違いなく「いい方の」監督であったと思う。
(映像5+脚本4+役者5+音楽4+演出4)×4= 88 点。

アラ古希
アラ古希さんのコメント
2024年8月19日

畏れ入ります。

アラ古希
Kazu Annさんのコメント
2024年8月19日

挿入歌の最初がセルマ・ヒルストンの “Don’t Leave Me This Way” 。次に流されたグロリア・ゲイナー「恋のサバイバル」で、共にドンビシャの歌詞だったんですね。挿入音楽で遊んでいたのですね。全く気がつきませんでした。英語ヒアリング能力が、羨ましい限りです。

Kazu Ann
アラ古希さんのコメント
2024年3月27日

戦争で忙しいんでしょう。

アラ古希
かせさんさんのコメント
2024年3月27日

今に至るまで火星の大地を探査したのはアメリカと中国のみで、ロシアは宇宙開発で完全に置いてけぼりなので協力は難しいかなと。

かせさん