「知性と行動力を駆使した清潔感のあるサバイバル劇」オデッセイ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
知性と行動力を駆使した清潔感のあるサバイバル劇
火星に取り残されてしまった男が、30日分の食料と限られた酸素、もしシェルターが破損でもしてしまえばその瞬間に死が確定してしまうような危うい環境の中で、4年後に来るはずの次の宇宙船に見つけてもらうまでどうにか生還しようとする様を描いた作品。
まず何に感心するかって、主人公マークの頭の良さと前向きさだろう。彼は自分が火星に取り残されたことを知り、そして同時にそれが「死」へのカウントダウンであることに気づくや否や、悩むでも泣くでも発狂するでもなく、まず「いかにして生還するか」を考え、それを実現するために次々に行動に出る。まずは食料のストックを数え、それによって何日生存できるかを計算する。与えられた環境の中で食料を生育させる方法を探る。使える器具を使って水を発生させる。次に宇宙船が降り立つであろう場所へ移動する手段を模索する。どうにかNASAと交信する為に工夫をする。彼は迷うでも悩むでもなく、まず行動に出る。しかも、火星に一人取り残された宇宙飛行士の奇跡の生還の物語だと聞くと、体力勝負のフィジカルな汗臭いサバイバルをイメージするかもしれないのだが、この映画が見せるサバイバルは頭脳を駆使したそれになっている。我々凡人からすると、あまりにも優等生すぎる行いにも思えるが、そうでもなければ宇宙飛行士になどなれないだろうとも思う。
一方で、地球にいるNASAのメンツの面白さや、結果としてマークを置き去りにしてしまった個性的な宇宙飛行士たちの存在もきちんと描き込まれており、宇宙、地球、火星、NASA、市民・・・と物語を多面的に見せ、とても面白く楽しめる作品だった。
しかし、映画を見ながらなぜか私は「まるで海外ドラマのようだ」と感じていた。SF要素を入れたどことなくアトラクション的な海外ドラマ。もっと言うと漫画的な要素を強く感じていた。最近良く見かける、大人が読んで読み応えのある(とされている)漫画の世界のような「虚構感」が拭えなかったのが、少々気がかりか。
リアルな世界を描いているようで、明らかに虚構の世界でしかない感じがそう連想させたのかも知れない。
とはいえ、リドリー・スコットの演出は手堅くも軽やかで小気味がいいし、マット・デイモンやジェシカ・チャステインなど、名実共に評価の高い個性的な役者のアンサンブルも含め、エンターテインメントとして楽しむのに向いた、有意義な作品だった。