「はじめての火星サバイバルガイド」オデッセイ 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
はじめての火星サバイバルガイド
巨匠リドリー・スコットの最新作は、
火星に取り残された男のサバイバル劇!
あれ、けど監督、超大作『エクソダス:神と王』も
昨年公開されたばっかじゃありませんでしたっけ……。
おまけに本作、スコット監督78歳にして
監督最大のオープニング成績を記録したとか。
巨匠、元気っすねえ……。
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それにしてもこの映画の軽快さときたら!
前述通り監督は御年78歳のお爺ちゃんだが、
この映画は、何と言うか……こう……若ェ!(爆)
展開はスピーディだし主人公も脇役もユーモアたっぷり。
とはいえ、物語の贅肉をズバズバ切除した思い切りの良い編集
(ロロ・トマシさんのレビューを参照されたし)は、
やはりベテランでこそ為せる事なのかしら。
食料・水・会話などを確保するアイデアに「ほえ~」と唸るし、
難解な科学用語を長々と説明してから冗談混じりに
ズバッと核心を述べるスマートなユーモアも良い良い。
硬派な役からナイーヴな役までなんでもこなす
主演マット・デイモンも相変わらずの芸達者ぶり。
ジョーク連発しながらもふとした瞬間には不安を抱えている
事がしっかり垣間見えるし、終盤での激ヤセにもビックリ。
脇のキャラもナイスな連中ばかりなのだが、
多過ぎるのでほぼ割愛。お気に入りは、
愛情たっぷりに主人公をけなしまくるマルティネスと、
挙動不審のアイデアマン・バーネル(笑)。
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しかしながら……
キャラもユーモアも現実味あるSF描写も面白い
とは感じつつ、どうにも釈然としないままの鑑賞に
終始してしまった気がするんすよ、自分は。
一番の理由はたぶん、ディティール。
科学考証がしっかり為されていると思える描写が多いだけに、
現実的とはあまり思えない描写や都合の良い部分が登場すると、
それが喉に突っ掛かった小骨のように気になってしまった。
そこは少し長くなるので余談としてまとめる。
まあ実は、この映画で僕が抱いた疑問を驚くほど詳細かつ
分かり易くまとめておられるブログを見つけたので
(URLが貼れないのだが、yokiさんという方が書いて
おられる『自分に負けないラボラトリー』を参照)、
疑問の大半も氷解してはいる。だけど、釈然としないまま
の鑑賞に終始してしまうと、疑問が解けてもやっぱり
釈然としない気持ちが残っちゃうもので。
あとは、リドリー・スコット監督作品にしては、
映像的にハッとする瞬間が少なかったのも不満点。
軽快ゆえに観賞後の後味もライトなので、思い返した時に
頭に残るようなインパクトある画ももう少し欲しかった。
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けれど、
この作品で頭に残るのは映像ではなく、
この作品の放つ快活さそのものだ。主人公マーク・
ワトニーのポジティヴシンキングは観客にまで伝染する。
「人生から『ここで終わりだ』と言われる瞬間が何度もある。
その時、ここで終わりだと受け入れるか、それとも闘うか。」
正確に覚えてはいないけど、マークは最後に
そんな言葉を語っていたと思う。
んなことできる訳ねえじゃんバカバカしい!と憤って
匙を投げたくなる事って日常でもしょっちゅう起こる。
ここのところは個人的にもそういう出来事が続いてる
のだけど、そんな時にふっとこの映画の主人公の事が
頭をよぎって落ち着きを取り戻す事が何度かあった。
怒りや苛立ちを抑えて、一呼吸置いて、
いやいや落ち着け何か方法が――と考えてみると、
状況を乗り切る方法って案外出てくるものなんだよね。
諦めずにいれば、手助けしてくれる人だっている。
困難を乗り越える為に必要なのは、豊富な知識もだが、
何よりも少しずつでも前進し続ける気持ちを捨てない事なのかも。
という訳で、観て損ナシの3.5判定。良い映画でした。
<2016.02.16.鑑賞>
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余談:
以下、疑問に感じた点を列挙。
・そもそも論だが、主人公が植物学以外についても
知識が豊富過ぎてちょっと都合が良過ぎる気が。
(向こうの学者さんて専門分野外の造詣も深いとは聞くが)
・おおまかな位置が分かっても、広大な砂漠に
埋もれた通信機器をたった独りで掘り出せる?
・石粒も多量に含んだ猛烈な砂嵐を、ビニールと
ガムテだけで乗り切るのはさすがに厳しいんじゃ。
・放置されてた脱出船が使用可能で、しかもそれが野晒し
の状態でずっと倒れずにいたってのは運が良すぎる。
などなど。
やだねえ、小姑みたいなツッコミばっかで。
マーズ・パスファインダーの原子力電池に関しては、重機で埋めて転圧したわけではなかったので問題にはならなかったかなと都合よく解釈してます。
それよりも千分の一以下の気圧の風であんなに煽られたりの方が気になりました。
でもそう撮らないと物語にならないしなあと、痛し痒しですね。
なぜか自分が自分のレビューに
コメントしたことになってるようなのですが(困惑)、
上のコメントくださった名無しのお方、
ありがとうございました。浮遊きびなごです。
(未登録の方はそう表示される仕組みなんでしょうか?)
ほんと、『MAD MAX 怒りのデスロード』も
おっそろしいバイタリティの映画でしたよね。
近所のおじいちゃんとかがあんな映画撮ってたらビビるけど(笑)。
日本なら市川昆や岡本喜八とか、あとは古参の
ロックシンガーとか、創作意欲の塊みたいな方の
作品ってこっちまでパワー貰える感じで良いですね。
リドスコにもミラーにもまだまだ頑張ってほしい……。
ではでは!