劇場公開日 2015年8月15日

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「深海の暗黒寓話」ブラック・シー 鰐さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5深海の暗黒寓話

2015年8月26日
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鑑賞方法:映画館

 思いがけない傑作、というと名匠ケビン・マクドナルドに失礼だろうか。絶海の閉鎖空間で寄せ集めの底辺人間たちが疑いあい、いがみあい、ついには暴発する。狂気を抑える側だったジュード・ロウ演じる船長も海と金の狂気に当てられていつしか狂っていく。
 絶望的な瞬間が何度かやってくる。ジュード・ロウたちに問題を切り抜けられそうな陽性の力は与えられていない。映画の暗いトーンはこれがヒーローの物語でないことを教えてくれる。当然のように故障するおんぼろ潜水艦。実在するかどうかもわからない金塊。頼れる仲間はクズばかり。それでも諦めずに活路を見出しては立ち上がり、深海の絶望相手に生命を賭した博打を繰り広げる。
 追い込まれる。とにかく追い込まれるのだ。見ているこっちが動悸を起こしそうなくらいに追い込まれる。このミッションに成功さえすれば、底辺の生活から、破産した人生から抜け出せる。自分たちを踏みつけにしてきた「あいつら」を見返せる。そこには希望がある。
 大資本と国家の間隙をついて大金を盗みだそうと集められたクズどもは最初こそ『オーシャンズ11』のような高貴なアウトローだったかもしれない。しかし、苦難の連続にいつしか希望も失せて、団結も壊れていく。
 K・マクドナルド監督は男たちの陰鬱な破滅劇を、ただ暗いだけではない、一級のスリラーとして磨き上げた。

鰐