劇場公開日 2017年8月11日

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「こんな完璧な脚本はなかなかない。」スパイダーマン ホームカミング さぽしゃさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0こんな完璧な脚本はなかなかない。

2017年10月8日
PCから投稿

★凄く良かったので、むっちゃ長文で暑苦しく語ります!

1)『初期ジャッキー映画の教え』

私はジャッキーの、初期カンフー映画をリスペクトしています。
それは若く溌剌としたジャッキーの魅力が溢れているからだけではなく、そのストーリーにある。
ジャッキーの初期カンフー映画、いわゆる『酔拳』『蛇拳』のなんちゃらモンキー(笑拳はラストが気に入らない)シリーズのテーマの1つとして、「鼻っぱしらをへし折られる」ってのが上げられると思う。
お師匠さんについて、そこそこ強くなったジャッキー演じる主人公の青年は、そこで強い敵と遭遇して、一回はぎゃふんとやられる。
でもそこで終わらず、悔しさをバネにして、更に努力しトレーニングを重ね、最後には「自分で考えたオリジナルの拳法」で勝つ。

自分より強い存在が、世の中にはいるんだ!
思い上がるんじゃ、ねえ。
また師匠に教えられたままではなく、自分で考え、学び、乗り越えることの大切さを教えてくれる。励ましてくれる。勇気づけられる。
それこそが、ヒーローの一番の役目だと思う。
あ、ちなみにヤムチャのモデルって、初期ジャッキー映画に欠かせない”石天”さんだと思っています。勝手に。

現実にはいない妙なクリチャーと戦うだけが、ヒーローじゃない!
そんな私の違和感を、察してくださいました。
流石、伊達にヒーロー業界を仕切ってないマーベルです。
よくよく分かってらっしゃいます。
今回のスパイダーマンは、冒頭にあげたジャッキーの初期カンフー映画よろしく、強い大人の存在にぎゃふんとなり、そこから考え、学び、乗り越え、15歳のピーター・パーカーらしい結論を出します。
そんなヒーロー:スパイダーマンの姿を観て学ぶのは、子供達だけではない。
親世代である、私たちもだと思う。
だからこそ、本作冒頭でヴィランとなるヴァルチャーと同僚が「kids got a future」と言うんですよね。
マーベルが本気で「俺たち、本当に子供のことを考えた映画を作るんや!」
「俺たち社会貢献するんじゃい!」
って、宣言してる。これからマーベル映画、きっと変わると思う。
そして、これってきっと、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督への意趣返しだと思います(笑)

2)『イニャリトゥ監督への意趣返し』
トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)
その用心棒ハッピー(ジョン・ファブロー)
本作のヴィラン:ヴァルチャー(マイケル・キートン)
メイおばさん(マリサ・トメイ)
この4人が、ピーターの傍にいる主要の大人だと思います。

◇天才で資産家。子供との関わり方が分からないトニー・スターク。それは幼少期の父との関係が影響していると、自分でも自覚している。しかし幼いピーターの素質を認め、アベンジャーズに推薦し、力を発揮する機会を与えてくれた人物でもあります。
今回も、ピーターの危機を救ってくれる。
しかし、上手に子供を諭すことができない。
「地に足をつけて」「自分のしたことに責任が持てるか」「スーツがないと駄目な弱い人間が他人を救えるのか」
成功した大人の言葉は説得力がある。けれど逆に逃げ場がない。
ピーターに対する愛情はあるけど、ついつい厳しくしてしまう。

◇自分を重用してくれたトニーに感謝している=ピーターに自分を重ねている節があるハッピー。
だからこそ、ピーターの浮かれた態度にイライラして小言も多い。けれど、何も言わないけど、遠くからこっそりしっかりピーターの行動を見ているし、実は一番ピーターの性格を理解している。ラストの台詞で、その不器用な愛情が分かる。

◇世の中には怖い大人がいるんだぞ!代表のヴァルチャー。しかしその怖さは、畏敬に近い。綺麗事ではない、教科書には載っていない世の中の仕組みを教えてくれる。
詳しく書くとネタバレなので、自粛。

◇無償の愛情を与えてくれる存在の、メイおばさん。
ピーターを心配し、過剰に保護する。どんな時でも味方になってくれる、両親、おじさん、彼女を亡くすスパイダーマンの中で(あ、今回はこのエピソード、ざっくりカットです)、奇跡の存在。

この4人から、私たちは子供との関わりを考えさせられます。
ヴァルチャーがトニーから虐げられたことを、ピーターに告げるシーンが秀逸です。
何故こんなことを僕に言うのか?
「知って欲しいから」
子供達に知って欲しいから。
多くの人たちが勘違いしている問題の一つに、格差社会ってのがあると思う。
格差にも色々あって、意図的な(必要な)格差と、そうじゃない格差がありますからね。
トニー・スタークは格差のトップ=マーベル。
彼らが作り出した格差は、悪なのか?
社会全体の生産性とか、経済・技術の発展、進歩、それで起こる格差は悪と言えるか?

マーベルは意図的な格差を否定せず、太陽が当たる場所には陰があることを「知って欲しい」という。
陰がもし悪であっても、そこに優しい視線を持って欲しい。
ヴァルチャーへのピーターの優しい眼差しが、最後の決断に繋がる訳です(すばらしい!)。
しかし、太陽が悪とは描いていない。
格差社会を、ミクロ的な視点と、マクロ的な視点で描いてる点がいい。

つまり、こうでしょうか?
成果主義で起こる格差の評価は、その企業がどれだけの人の生活を豊かにしたか、どれだけ社会貢献したかで決まるんじゃい!
「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」で翼を背負ったマイケル・キートンに、またまた翼を背負わせたマーベル。
バードマンって映画は、いわゆるハリウッド資本の超大作(つまりマーベルみたいな作品)を揶揄する内容でした。
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ、分かったか!てなもんですよ。
お前、どれほどの人を豊かにしてるんだよ。どれだけ社会貢献をしてるんだよ!?

ジェームズ・ガン監督がこう言っていた。
「いつも自称・エリート達に攻撃される。超大作は、インディペンデント系やシリアスな作品より、思想も愛も無いって」
マーベルは、こんな自称・エリート達にも、意趣返しをしてると思う。
だって、本作のEDって、インディーズ映画っぽくなかったですか?
そして、思想も愛もあるんだぜ!今回のマーベルには、あるぜ!
本作には、今までハリウッド超大作を観て来なかった新たな層への、アプローチも含まれているともいます。

3)『ジョン・ヒューズの脚本は完璧!』
みなさん書かれているように「ブレックファスト・クラブ」のオマージュあり、あと芝生を走る姿は「フェリスはある朝突然に」のオマージュですよね?
つまり、かなりなジョン・ヒューズ節!
ジョン・ヒューズの作品には、ヒロイン、ヒーローはいない。
あ、いるんだけど、教室の隅で目立たない存在にフォーカスして、笑いあり、涙あり、恋あり、ちょっとした出来事に傷ついて、それを乗り越える。
そこに巧い台詞と、学園あるあるネタが、ジョン・ヒューズらしいユーモアでプラスされ。もちろん、センスの良い音楽も!
完璧だ。
ジョン・ヒューズの脚本は完璧なんだ!!
そのセオリーに則った本作の脚本が、完璧でない筈がない!

本作には、目を見張るようなアクションシーンは少ないかもしれません。
けれど、そんな敵をやっつけるより、大事なイベントが高校生にはあるじゃん!
ホームカミングと、そう「全米学力コンテスト」!!
だって高校生だもの。学業優先でしょ?
このイベントで、「スパイダーマン1」の逆さちゅーのオマージュシーンありますけど、ピーターはね、チューしない!
だって15歳だもの。
凄く違和感あるんですよね。
スパイダーマンシリーズの、ピーターの大人っぽさに。
アメージングなんか、「お前はジゴロか?」と言いたくなるような、手慣れたラヴシーンがある。
本作の、考え抜かれたピーターのキャラ設定。
素晴らしい。何度でもいうけど、素晴らしい!
そして、1シーン、1シーン練りに練り込んだ丁寧な脚本。
ピーターがスクールバスかなんかに突っ込んで、シートの下のガムを発見して「おえっ」となるとか、ピーターの住む世界を丁寧に丁寧に、隅から隅まで描いている。
片渕須直監督イズムですよ!多分(笑)
だからこそ、ピーター、スパイダーマンを、身近に、隣人に思える。

スパイダーマンは親愛なる隣人であると同時に、子供達のいいお手本となるヒーローで、なんとも母性を擽る可愛い奴!
これから、ピーターを見守らなくちゃ。みんなで育てていかなくちゃ。
と思わせる脚本、完璧。

「(トニー・スタークに)認めて貰いたくて頑張ったんだけど、駄目だった」と泣くピーターを観て、私と隣のお姉さんは号泣。
ラストの決断も「まぁ、ピーター偉いねえ」と泣く!
大事なことなので、もう一回言います。
脚本が完璧!
だから本作は、母性に訴えるプロモーションを打つべきだったんですよ。
そしてアベンジャーズは、腐女子に打つべきだったんですよ(笑)!!

まだ書くのかい!と思った方、ええ、もっと書きます(笑)

4)『マーベルの高速ウィンク』
MJ(キルスティン・ダンスト)の歯並び、グエン・ステイシー(エマ・ストーン)の舌っ足らずな喋り方、と、どんだけスパイダーマンは、ヒロインの口元を私に気にさせるんだ!?とむっちゃストレスでした。
けど今回は、初めてストレスなく観ることができました。

ピーター恋するリズは、スパイダーマンの古参キャラですよね。
トゥームスの発明担当:ティンカラー。
武器取引場面で出てくるショッカー2匹と、プロウラー。
プロウラーが「甥っ子がいる」って言ってて、調べたらその甥っ子が「アース1610」で二代目スパイダーマンになるんですよね!
ヴァルチャーも古参キャラで、宇宙生物とか妙な化け物ではなく、敵が ”道を踏み外した怖い大人”というのも、いい。

そんなこんななオールド・コアファンへの目配せ、過去昨のオマージュをいれてくださる。分かる人だけに、高速ウインク。あざーず!ファンを大事にしてる感。あざーす。

5)結語
監督がジョン・ワッツ。
見終わってから、『コップ・カー』の監督さんだと知りました。
面白い監督さん、見つけてくるなー。
だからちょっと、インディーズっぽい感あるんだ!
ほんとマーベルって、番場蛮みたいにいろんな変化球が投げられるんですね。
テーマの描き方、脚本、キャスティング、音楽、映像、ほぼほぼ完璧で、私の中ではマーベル作品ベストとなります!
あ、キャスティングで触れなくちゃいけないのは、メイおばさん。
だんだん、若返っていますよね。
キャスティング、神だと思いました。
映画好きおじさん達が愛する、「マリサ・トメイ」ですから。さきほど、母性を擽るピーター、母親目線で観させるスパイダーマンのお話をしましたが、お父さん世代もぐっとくるキャスティングにするとこ、むっちゃ分かってはる!
しかもトニー・スタークことロバート・ダウニーJrのリアル元カノ。
「メイ、セクシーな下着つけてる?」
って、ピーターの動画にいうトニー。
ほんと、細かいとこまで行き届いてるわー!

アメコミ映画化=ハリウッド超大作が好きな人達って、映画好きカーストの中では割と下に見られることが多いけれど。
本作は、今までのマーベル作品とは違います。
普段はこのジャンル観ない方も、試す価値あると思います。
全力で、オススメします!

PS いじめっ子だけど、へたれ感のあるフラッシュとか、ピーターの相棒ネッド、先生とか、あのアイドルをこの役にキャスティング!?とか。素晴らしい!

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夏斗