「映画「顔のないヒトラーたち」作品レビュー」顔のないヒトラーたち 流山の小地蔵さんの映画レビュー(感想・評価)
映画「顔のないヒトラーたち」作品レビュー
公開されてもうすぐ1ヶ月になるというのに、単館系の映画館で大ヒットしている作品。満員御礼で鑑賞するのに3回も都心に足を運んで、やっと見られました(^^ゞ
それだけ受けているのは、1958年の西ドイツでは、アウシュビッツ収容所についてほとんど知られていなかったという驚きです。おそらく日本人の3割は、知らない史実でしょう。その予想外から映画は始まります。
日本と同じ敗戦国ドイツは、そこから過去とどのように向き合っていったのか。ドイツ人がドイツ人を裁いた63年のアウシュビッツ裁判。そこに至る苦闘が、凝縮して描かれる。戦後のドイツを覆う戦争犯罪への無関心。そんな当時のドイツ人の空気の中で、主人公の駆け出し検事ヨハンは、悪戦苦闘して、ついにアウシュビッツの真実と戦争犯罪の証人や証拠に行き着くまでが、サスペンスタッチで、描かれていました。
駆け出し検事として登場したしきのヨハンの仕事は、交通違反専門といういささか検事としては退屈な日々を過ごしていたのです。罰金が払えないとけんか腰にやってきたマレーネといつの間にか恋に落ちてしまっているという職権乱用も(^^ゞ
そんなヨハンが、歴史に残るアウシュビッツの告発の担当検事になったきっかけは、とある記者からの密告からでした。
記者がいうには、元ナチス親衛隊員が違法に教師をしていると聞かされたため、調査を始めのです。調査の中で、次々とアウシュビッツからの生還者の証言に驚くヨハン。そのの実態を知った彼は、善き市民として暮らす元ナチスの人々の過去を暴き、戦争犯罪を裁こうとするのです。
しかしその件を検察の会議に出しても、誰も関心を示そうとしません。些細な問題に過ぎないのか、国民の多くが忘れたがっているナチスの問題を掘り起こすなど、もううんざりなのか。凄く違和感を感じる当時の検察の対応でした。
見た目では、この時期の西ドイツでは、アウシュヴィッツのことさえ忘れようとする傾向があったのではなかと思えてくるようなリアクションなのです。
それでもヨハンは理解のある上司と熱血の同僚の協力を得て、アウシュヴィッツの管理に当たったナチス幹部の生き残りにターゲットを絞って、起訴に持ち込もうとします。
しかし、消息を調査しようと各方面に当たってみたら、調べなければならない資料は山ほど出てきて大変な仕事となります。しかし、ホロコーストの罪を国民に知らしめるこのしんどい作業をやり遂げることこそ、ドイツは自力でナチスを法廷で裁くべきだとの使命感にヨハンはのめり込んでいったのです。
何万件というナチス党員名簿から、ひとりずつコツコツチェックしていくヨハンの直向きさに、彼の誠実さや正義感の大きさが滲み出ていました。
ヨハンの捜査は淡々と描かれていきます。こういう大真面目な堅い内容なのに、それでもサスペンスタッチと紹介したのは、元ナチス党員がどこに潜んでいるか分からない恐怖。実際に恋人となったマレーネの家にいるとき、ナチスのマークが刻まれた石が投げ込まれて、これ以上の捜査をするとどんな目にあうか分からないぞとの脅迫を、暗に受けるシーンが描かれていました。
ただ脅迫されるシーンは、ここだけ。もっといろいろ脅されるシーンを織り込んでおけば、捜査が進むほどに緊迫感が増して、メリハリのあるストーリーになっていたはずです。
でも、一般の観客も面白く見られるようにと、脚本と監督のジュリオ・リッチャレッリはずいぶん気を使ってくれたのでしょう。他にマレーネとの恋の行方が気になる展開をたっぷり用意したり、捜査の過程を少々ミステリー風にしたりとサービスシーンがたっぷり用意されていました。
特に、マレーネとの関係が急に悪くなるきっかけとなったのが、マレーネの父親が元ナチスだと知って、父親を罵ったことから。しかし、その後マレーネの父親ばかりか、自分の母親の再婚相手、さらに実の父親までがナチスだったと分かって愕然とするのです。実の父親から、当時はみんな入党したのだ、そんな時勢だったのだと聞かされて、ヨハンは正義を見失って苦悩し、自暴自棄に。
マレーネとも別れてしまい、検事もやめてしまったヨハンには、アウシュビッツ告発の情熱が消えてしまったのか。ナチス幹部の告訴はどうなっていくのか、ちょっと意外な結末は劇場で。
ところでこの物語は、架空の登場人物もいますが、大筋は実話に基づいて作られています。脚本も手がけたジュリオ・リッチャレッリ監督は、これが長編デビュー作とは思えない手腕を見せてくれました。
過去を掘り返されることを周囲が嫌がる中、少しずつ協力者が増えていく感動。膨大な資料と格闘しながら、容疑者を1人ずつ追いつめる興奮。重いテーマながら、見事なエンターテインメントに仕上っていると思います。
善良な人々はなぜナチス党員となったのか。問題の本質に迫ろうとする作り手たちの真剣さに、きっと心が打たれることでしょう。
余談ですが、ドイツ人は、戦争犯罪に全然無関心だったのに、日本の新聞は戦後70年間も、慰安婦だ、南京事件だとでっち上げの記事まで使って、日本人の反省を説き続けてきました。同じ敗戦国ながら、余りにも対称的ですね(^^ゞ