この世界の片隅にのレビュー・感想・評価
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心和む
戦禍のヒロシマを舞台にしていながら、主人公すずの飄々としながらも逞しく生きる姿に笑いや感動があり、何故か心和む素晴らしい作品です。
絵を描く事が好きな、すずの絵も効果的に使われて、戦争の非道や命ののはかなさを伝えます。この様に言うと、地味で暗い作品の様ですが、美しい絵と、すずの日常がリアルに描かれた楽しい作品になっています。
「君の名は。」が大ヒットしてる中、この様な作品にも皆の注目が集まれば良いなと感じました。
里帰りじゃわぁ。
あんたぁ、ちょっときいてぇや。
この作品、困ったことに、うちの親の両方とも呉市の出身じゃけぇ、他人事じゃあないんよ。
昭和20年6月にうちの親父を産んだばあちゃんは大正の最後の年の生まれなんで、すずさんとはほとんど同い年なんよ。
ばあちゃんの若いころとイメージするじゃろ、ほいだら、なんともこっぱずかしいような不思議な気分になるんよね。キスシーン。
戦後、すずさんは呉に残ったけど、うちのじいちゃんばあちゃんは、まっ平らになった広島の一角(うさぎが跳ぶ海のそばの宇品です)に家をつくって親父を育てた。
ばあちゃんは91歳で2年前から骨髄患って闘病生活に耐えられんようになって、県病院の緩和ケア病棟に先月から入っとるん。
そんなわけでこんところ立て続けにうちら家族は広島通いしとるんよ。
うちのばあちゃんはカープの久し振りの優勝見てよろこんでじゃったけど、すずさんもまだ生きとってカープナインの勇姿を喜んでみてくれたかね、などと妄想。
うちん子は、戦艦の名前はよう知らんけど、カープの選手の名前と応援歌はよう覚えるで。平和よのぅ。そうそう、うちん子もあや取りも上手にするけんね、それはそれはどきどきしたわ。あがいなことに…。
この映画ばあちゃんに見せたいけど、そんで昔話も聞きたいけど、到底無理じゃわいや。無念よの。
ほいじゃ、また。
ヨハネの黙示録 第8章6節
主題歌の「悲しくてやりきれない」の前に流れる讃美歌111番「神の御子は今宵しも」。その後に映るエンゼルがトレードマークの森永キャラメルの看板。題名の「この世界の片隅に」もイエス様の誕生を祝うクリスマスからスタートなのだから当然なのだけれど何か関連がある?ある日突然に、平穏な生活を打ち破る空襲を告げる音色は聖書を連想させるし。
色々な読み解きができそうな短い場面がいっぱいある。観るたびに発見もあれば謎も残って何回も観たくなる映画です。
戦時アニメ最高傑作!今後教材になりそうな映画
戦時映画にしてみればグロい部分がほとんどなく、更に戦争の悲惨さを知ることができる映画でした。
作品内容というより能年玲奈の声優に興味を持ち観賞しました。予告編では正直能年玲奈は棒読み…?合わないかなぁ〜っと思ってましたが実に役にピッタリでのめり込まれる様な声優でした。
私にも晴美と同じくらいの姪がいるのであのシーンはとても感慨深かったです。
映画で泣いたのは初めて
泣かせる映画はいくつも観てきたが、涙がこぼれるほど心の底から泣いたのは初めてだった。
悲惨だから泣いたんじゃない、何かに対して感動して泣いたんだけど、何にであるのか言語化できない。
いくつも悲しさを誘う要素はあるけど、それだけなら他の映画と変わらない。どんな魔法が仕掛けられているのか、時間をおいて観直してみようと思う。
とても美しい
クラウドファンディングでの融資が話題になっていた本作、原作の空気感をどう表現できるかが気になってたのです。
これが見事に再現されていました。
端から端まで細かく描かれていて、何よりカットがとても美しい。
コトリンゴの音楽もとても合っており、作品に広がりを持たせていました。
キャラデ・作監の松原秀典さんも、原作の雰囲気を生かした見事なキャラクターを描き出しています。
戦争がテーマの作品ですが、重く苦しい内容も主人公すずの視点なので、どこかコミカルでふわふわした雰囲気に描かれています。
のんさんの演技もそうさせるのでしょう。
また随所に食べ物をうまく差し込んでいて、当時の食事事情や主人公の心持ちが伝わりやすいのも良かったと思います。
その食べ物というキーに合わせてなのでしょうか、玉音放送を聞いたすずが慟哭するシーンのセリフが変わっていました。
ある意味とても重要なところなので、とても思い切ったシフトだと思います。
そして何と言っても絶対作品を作ると決意した監督の気概でしょう。
静かな作風なのに力強さを感じるのは、そんなところもあるのかもしれませんね。
今回クラウドを使って素晴らしい作品が作れるという、一つの指針になったのではないでしょうか?
同じ戦争の映画で真逆のような作品ですが、塚本監督の「野火」と同様に一人でも多くの人に観てもらいたいと思いました。できるだけ長く上映してほしいものです。
私は今回この映画と出会えた事が嬉しくてなりません。
儚くも強くて温かい、とても喜びに満ちた作品です。
エンドロールの最後の最後にメッセージあり!必見です。
映画「この世界の片隅に」を劇場で見ました。
私の表現力では表せない感度で心に残るとってもいい映画でした。
多くの方々に見て欲しい、感じて貰いたいと思いました。
ネタバレするので詳しく書けないのがもどかしいです。
ただ言える事は、
エンドロールが流れても会場が明るくなるまで
最後の最後まで絶対にスクリーンを見ていて欲しいです。
そのメッセージを含めて映画が完成されていると思いました。
映画の始まり
すずさん(のんさん)の愛らしい声にグッと心をつかまれて
一瞬で主人公すずさんとのんさんが一体化し、映画の中へ連れて行かれました。
劇中の昔ならではのモダンな感じは、おしゃれでステキだと感じました。
逆に生活の様子は、今のような家電もなく水道もなく、
朝早く水汲みから始まり苦労や工夫をして暮らしていた様子をみると、当時としては当たり前なのに、懸命に生きていたんだと感じました。
今、私は、はたして懸命に生きているだろうか?と、自問自答してしまいました。
後半は、
ぜんぜんお涙頂戴的には作られていないのに、自然と涙が流れて止まりませんでした。
くどいようですが、エンドロールの最後の最後までが見所です。
明るくなるまで、絶対にスクリーンを見ていて下さい!
感動って、心が動くって、こういう事なんだと実感し、
嬉しい感動だけじゃなくて、苦しい感動、切ない感動、この映画で様々な感情を味わいました。
見ている途中から、「それでも生きている」「それでも生きて行く」って事を改めて考えていました。
戦争シーンでは息を飲み胸が痛くなるほど怖くて、心の底から戦争はイヤだとも思いました。
原作も読んでいますが、のんさんの声はすずさんでした。
そして「クセになる声」だと思いました。
もう一度、二度三度と見に行きたいです。
とにかく沢山の方々に見て頂きたい、とても心に残る映画でお勧めです!
最後の最後のメッセージをぜひ劇場でご覧になって下さい。
すずがなくした右手が問うもの。涙を流すだけでなく考えてください。
ちょっと前に観ました。
そして、いつものように長文になります。
すみません!お付き合いください。
(あらすじ)
18歳で広島市から呉に嫁いで来た主人公:すず(声:のん)が、戦争により変わって行く世界の中でも、おかしみと優しさの視線を忘れず、貧しい生活の中でも工夫して、心豊かに暮らす姿を描いています。
こうの史代せんせ原作です。
あのー、なんでしょう?
アニメ映画を観てるとか、そんな感覚ではなかったんですよ。
まるで、傍にすずさんがいる感じでした。
私も確かに、あの時代に居たんです。
こんな感覚、久々です。
今までの反戦映画(私は本作をそう呼びたくはないんですが)は、戦争の残酷さ悲惨さを"強調"するあまり、戦争自体を別次元・別世界のものにしている。と、ずっと思ってたんです。
かなり前に、渋谷のスクランブル交差点で20代にインタビューしてるのを見たんですが、「え、日本とアメリカって戦争してたんですか?」って、大半の子が言ってましたからね。
そんな子達に残酷さを"強調"した作品を見せても、実感が湧かないんですよ。
ホラー映画と同じです。
最近の戦争を題材にした邦画って、現代の私達と戦争とを、あまりにも乖離させ過ぎだと思うんです。
戦後70年作品がリメイクとは、情けない限りです。
というか、WGIPの洗脳て、こんなに根深いもんだとぞっとしました。
何故情けないと思うかは、後半のネタバレでちょっと書きます。
本作の凄いところは、観客にあの時代を追体験させることに成功している点だと思います。
何も強く主張せず、ただすずの生活を丁寧に丁寧に淡々と描くことで、私達の生活の地続きにある戦争を追体験させます。
勘違いしないで頂きたいのは、戦争、広島、原爆を描いていますが、悲劇ではありません。
むしろコメディなんです。
笑いが一杯あるんです。
だけれども、私達はこの物語のラストに、原爆により広島が破壊されることを知っています。
その日が、一刻、一刻と、すずに近づいているというのが、苦しくて、苦しくて、胸が痛くて、逃げ出しそうになりました。
この感覚は、7才の時に学校の平和教育で見せられた、「はだしのゲン」以来です。
因みに私は、「(実写)はだしのゲン」を観て、暫く学校に行けなくなりました。
当時は、その理由がよく分からなかったのですが、大人になって考えれば、ゲンが学校に行ってる間に原爆が落ちて、家の下敷きになってお姉さんは即死、お父さんと弟は生きたまま焼け死ぬからだと思います。
あの時、私は始めて、自分の生活の地続きにある戦争を意識したんだと思います。
ただし、「(実写)はだしのゲン」が、現代に通用する反戦映画かどうかは、また別の問題だと思いますが。
何故こんなに、すずを近くに感じるのか?
ちょっと調べてみたら、片渕監督は徹底してあの時代を調べあげて、実はただ道を歩いている人も特定しているらしいです。
残っている資料って少ないので、取材を重ねて、あの広島の街を再現したらしいですよ。
広島出身の父に、この映画を見せたかった!
「原爆ドーム」が、元は広島県物産陳列館であったということの意味を、初めて教えてくれた映画かも知れません。
あと、戦艦とか、呉って軍港があるので、アメリカからの爆撃をとにかく受けるんですが、爆発する時の色とか、破片が降ってくるところとか、今まで観たことないくらいリアルなんです。
そしたらやっぱり、片渕監督ってミリタリーおたくなんですね。
同じくミリタリーおたくの宮崎駿監督を、論破できる唯一の人みたいですね(笑)
爆発する時の、煙の色まで調べてるようです。
そして、あの時の描写が、また凄く良いんです。
戦闘シーンを、あんなファンタジックに描けるんですね!
そうそう、ずずは絵を描くのが上手なんですが、風景が水彩画風になったり、あとミュージカル要素もあったり!
とにかく、すげーです。
これに尽きます(笑)
すげーです!
もう語ろうと思ったら、一晩いけますからね(笑)
でも監督の目的は、アニメ映画を撮ることより、すずとあの時代をリアルに描くことで、その時代を知らない私達を説得することだったのかも知れませんね。
あ、「マイマイ新子と千年の魔法」もそんな感じなので、合わせて観てください。
(以下ネタバレ含みます)
すずは、昭和元年生まれの女性なので、はっきりと自分の考えを言いません。女は黙って耐えろ。な、時代の女性です。
ただ、絵を描くのが好きなんですね。
きっとそれが、彼女の唯一の意思表示だと思います。
でも、その右腕を、爆撃でなくすんです。その手で掴んでいた、姪の晴美と一緒に。
その失った右手の記憶の描写が良くて、また左手で描いた絵がその時代を表しててまた良くて。
でも、失った右手の代わりに、意地悪だった義姉の優しさに気付いたり(このお姉さんもいいの)、夫の愛情、絆が深まり、また新たな命を拾うんです。その子が希望に繋がるんです。
日本は先の戦争で失ったもの代わりに、何も学ばず、そこから何も得ることができず、希望もなく、全く前に進めてないんじゃないか?って、戦後70年作品がリメイクか!って、情けなくなったんですよ。
もう1つ、日本が戦争に負けて、すずが「知らずに死にたかった」と泣くんです。
すずが知りたくなかったこと、はっきりと描かれてなかったように思います。
そこは、汲み取って頂けるといいかなと。
これ、「帰ってきたヒトラー」と、同じようなテーマがありました。
ネタバレの2点、今までの日本の反戦映画にはなかった視点だと思う。
そろそろ、日本も前に進まないと。
そしてコトリンゴさんの「悲しくてやりきれない」が心に響き、泣くまい、泣くまいと思って必死に観てたんですが、ラストで夫の周作がすずを見付けるシーンで号泣。
私が、見付けて貰ったような気がして。
やるせない気持ちが、少し晴れました。
安心して、涙が流れたんです。
人間って、ほっとしないと涙って出ないんですね。
あのー、とにかく観てください!
お願い致します。
PS のんさんって、凄く良い女優さんですね。今更ですが「あまちゃん」観ます!あ、エンドクレジット見逃さずに!
普通の日々の愛おしさ
ストーリー、アニメーション、美術、音楽、声優の演技など、派手さはないが全てが丁寧に作り込まれていて、文句の付けようがない傑作。
主人公たちが生きている普通の日々が、とにかく愛おしくなるから、それを破壊する戦争が素直に憎いと思える。
鑑賞から少し時間を経て、登場人物たちの政治や戦争に対するスタンスが全く見えないのが、少し疑問として浮かんだ。
描くのを避けたのか? それとも、そういう話は家族の中でもあまり話さないものだったのだろうか?
いずれにせよ、何度も見返したくなる映画。
すずの残りの人生も観て観たい。
とても余韻の残る映画で、素晴らしかったです。
観終わってす直ぐに、また、すずに会いたいと思いました。
そして、すずとのん(能年玲奈)が、一つになってました。
正直、のんが声優と言ってもと、少し懐疑的でしたが、のんは、まさにすずで、すずは、まさにのんでした。
じわじわと、君の名は。を追い掛けて行くのでは無いでしょうか。
もう一度、すずに会いたいですね。
その後も、残りの半生も・・・
能年玲奈の声が素晴らしい。
能年玲奈改め、のんの、素晴らしい声優振りがうれしいですね。決して単純ではないキャラクターの主人公すずに、ぴったりとはまっているような気がしました。
とても厳しい いろんな状況や環境の中で、困った天然、と言ってしまっては、身も蓋もないんだけれど、他人よりも少し緩やかな気持ちの持ちようだったり、感覚がまわりと微妙にずれるあたりがキュートで切なく、でもそれが、なんとなくまわりを和ませていくような感じが、彼女のイメージとぴったりでした。
ストーリーは、大変に重いもので、戦前からの広島、呉を舞台にしていること自体が、やがて来る悲劇を当然に予感させます。だからこそ、日々の人たちのやり取りや、自然が、一層愛おしく美しい。運命の日が来るのを知っている我々は、そこに至る過程と、そこからの救いを期待せざるを得ません。
そういう意味で、私にとっては、大きな救いがある映画でした。戦後の日本の復興は、こうしたドン底からの希望があってこそ出来上がっていたんだなーと、素直に思わせてくれる映画でした。声高く言う必要はありませんが、日本人として見ておく映画と思いました。
奪われたもの
後半部からずっと、隣席で妻が泣いておりました。
鑑賞後、1日たっても、何か胸の内で疼いています。
淡々とした表現でありながら、内包するテーマはずっしりと
響きます。それは命、生活、平和の重さ。
エンドロールで、クラウドファンディングで支援をされた
方々の名前が出てきますが、最後の最後の画像に
少し違和感があり、それが引っかかっていたのですが、
ようやく気づきました。
すずさんから、彼女が失ったものを託されたのです。
そして、我々はそれを奪われてはいけない。
原作者の「夕凪の街」「桜の園」での3部作を望みます。
これが父さんの生まれた時代か、と思った。
日常の中で、戦争が起こるってこうゆう事か。と思った。
すずさんが、母親を亡くした女の子を連れて帰るシーンを見て、こういった関係の親子がそこかしこにいたんだろうと思った。
私の父は、九州出身で、養親に育てられたが、父の地域では養子が珍しくなかったそうだ。
場所と、時代がそうだったんだろう。
その事を思った。
それを置いても、いい映画だった。
すずが腕を失った後は苦しくてたまらなかった。
映画館でずっと泣いていた。
でも、監督の作品に対する視線がずっと優しくて、安心出来るような、だからこそ悲しさが胸に突き刺さるような、
そんな映画だった。
評価は、ドンパチして分かりやすい映画が好きな人は退屈に感じる場合もあるかもしれないなぁと思ったので、4.5です。
(あと、個人的には、納年さんは、能年玲奈名義ですずさんをやってくれたら良かったのに。って思う。世にも奇妙なの収録を木更津でやった時、お姿を拝見したけど、何気ない立ち振る舞いがファンサービスに溢れてて、なんて優しい人なんだろうと思った。だから、能年さんが、能年さんとしてクレジットされてよいのでは?って。でも、そんな人だから、「のん」にしたのかな?すみずみまで優しさが溢れてて苦しいぐらいの作品だったなって思います。)
敢えて苦言、識者の評価への違和感
この映画を観た自分の素直な感想は、たしかにいい作品だと思いましたが、気分が重くなるのでもう一度観たいとは思わなかった。あと、今までの既成概念の範囲内で固定観念に捉われた人にとっては特にいい映画だろうという印象でした。この映画を高評価している理由にリアリティーを追及しているからというのがあるが、それならドキュメンタリーでいいのではないか?また、そのような人は「君の名は。」については辻褄が合わなくて矛盾が多いことや過去を変えることに批判的なような気がする。自分としては思考が現実を創っていると思っているので、人間が想像できるものは全て現実であり、実現可能だと思います。般若心経の色即是空、空即是色や現在の量子物理学などでも或る程度は理解されているはずです。自分で現実を創っているのにその自分で創った映像に対して「依存」「崇拝」や「批判」することは自分の創造性を他人に委ねることになると思います。自分の考えとしては惟神や他力は受け身とは違うものと理解しています。
観てから3週間くらいたっちゃったけど。
●観た直後はレビューする言葉が浮かばないくらい感動しました。本当に大切な作品になりました。
●「戦争」映画だから敬遠してしまいがちな人も、これは本当におすすめできる。基本的に笑えるから。だからこそラストの感動は筆舌に尽くしがたいんだけど…。
●それから、これはフィクションであるからこその感動なんだと思った。フィクションであるからこそ、人生賛歌ともいうべき内容に、変な説教くささがないのかも。
●しかし、映画館で普通に涙が溢れてきたのは何年ぶりだろうか…。クリードも泣きそうになったけど、確か涙は出てない。本当にすごい映画だなぁ。
昭和日本女性を蘇らせる奇跡
この映画はある昭和女性の人生の一部をそのまま切り取り現代に再現することに成功した稀有な作品です。
映画・アニメとして優れているだけでなく文化的な価値、日本人として記録すべき情報を残すことが出来た日本人の文化的な財産であると思います。
・人生をそのまま再生出来たことの凄まじさ
邦画では特に顕著ですが、役者の過剰な芝居やテンプレート化した演出により本来表現した人物像が偽物のように見えてそこに「人生」を感じることは出来ません。しかしこの映画はとにかく徹底的に細部に情報と人々の感情を丁寧に積み上げた結果、創作物を超えて「昭和の女性の人生の一部」を切り取って再現することに成功しています。例えば着衣や料理一つとっても通常では有り得ないレベルの細部や作り方が描かれており、人物や風景の作画描き込みも半端ではありません。また、のんさんの演技に代表される役者さんたちの「普通に昭和に生きていた人々」としての演技が素晴らしく、邦画特有の過剰な演技や演出が抑えられています。その結果本来映画が描くべき、物語の登場人物の「人生」を実体験として感じられます。そういった意味で本作はアニメ映画だけでなくテンプレート化した邦画全てをおきざりにして「本来あるべき戦争映画・時代映画」のフラグシップ的な作品となったと思います。「作品に魂がやどる」とはまさにこのように綿密な努力による徹底的な作り込みにより達成される境地なのだと実感しました。
・のんさんの演技の素晴らしさ
正直私は事務所のゴタゴタが始まってからの能年さんの印象はあまり良くはありませんでしたが、そういったことは一切抜きにしてのんさんの女優・声優としての演技は素晴らしいものがあります。先程も述べましたが日本人の俳優はおしなべて過剰な演技やテンプレート化した演技が多く、金太郎飴のような演技が多く見られます。しかしのんさんは最初から主人公の「すず」そのものとなって登場しました。一言目から「昭和に居たすずという可愛らしい女性が喋っている」ことのハマり方が尋常ではないのです。これはキャスティングもそうですがのんさん自身が他の俳優、声優さんでは真似出来ないような「本当にその人物になり切る」能力がずば抜けているのだと思います。過剰な演技ではなく自然体として感じられる「すず」そのものがいきなり完成されているのです。私は声優さんも好きなので正直、俳優さんが声優をやることに肯定的では無いですがのんさんのずば抜けた「その人そのものになる」演技を見ると声優、俳優というい垣根を超えて演者としての圧倒的なのんさんの演技力を感じてしまうのです。
・コトリンゴさんの音楽の素晴らしさ
私は以前からコトリンゴさんの楽曲を聴いたことがあり好きでしたが、ここまでの劇伴と相性が良いことは知りませんでした。元々超絶技巧のピアノを弾きながら余裕な感じで歌う圧倒的才能というイメージでしたが、今回は超絶技巧というよりはあくまで劇伴に徹しており、素直に聴いていて涙が出るような素晴らしい楽曲が随所に登場します。また録音状態も非常によくユーロスペースの音響も良かったのかピアノ鍵盤の響く音が非常に心地よかったのが印象的でした。
・オープニングで既に泣ける
この映画はとにかくどこを切り取っても「すず」という女性の人生を丸ごと持ってきていて素晴らしいのですが、やはり一番印象に残るのはオープニングです。まずのんさんの恐ろしいまでの自然体の「すず」としての発声の素晴らしさ心地よさ、可愛らしさに打ちのめされ、圧倒的な描き込みの作画に打ちのめされたころにコトリンゴさんのオープニング曲が流れ始め、正直この時点で映画館ではすすり泣きが聴こえてくるほど圧倒的な「情緒」が表現されています。このオープニングだけでも1800円払って満足というレベルです。
以上、べた褒めしましたが最初にも述べた通りこの映画は日本人の文化的な財産であると思います。このように昭和に生きる日本女性を描ききった作家のこうのさん及びアニメスタッフ、キャスト、コトリンゴさんには尊敬しかありません。本当に素晴らしい。
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