劇場公開日 2025年8月1日

「戦後80年記念上映に寄せて」この世界の片隅に halさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 戦後80年記念上映に寄せて

2025年8月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

【この世界の片隅に】
戦後80年なのでリバイバル上映される、舞台挨拶もあるというので、新宿テアトルに観に行ってきた。
のん氏がインタビューで話したこと。
主人公すずは自分の感情を表に出すことが苦手だが、絵を描くのが好きで絵を描くことで日常のちょっとした感情を発露していた。でも米軍の昼間爆撃で時限信管による爆発で義理の姪の命と自身の右手を失う。それを契機に描くことができなくなったゆえか、性格が変わり激情的になっていく。そこが演者として一番気付きを受けた事だと。
なるほど、そこは気付かなかった。
でもそのすこし前、巡洋艦乗りの水兵となった幼馴染が半舷上陸で嫁ぎ先にすずを訪ねてくる。水兵を家に泊める事は許さず納屋に泊めた旦那が、しかし、すずに水兵のもとに行くことは許す。そこで水兵はずすに南洋で拾った鷺の羽を渡し、それをペンとし昔のように絵を描くように促すが、すずは何故かうまく描けない。きっと既にすずはもう変わり始めていた。ややエロティックな場面であるが、昔、思いを寄せていた幼馴染との今生の別離を、そして、自分の人生を自分で生きていく決意をした瞬間だったと今になって思う。
この映画がほかの凡百の作品と一線を画するところは、先の戦争を描いているが、決して反戦とか非戦のメッセージを直接的に表現しなかった事。片渕監督はそれをなぞなぞとして埋め込んでいるという。自分の頭で考えてそれを見つけ見定め判断することを観客に課している、それは非常に冷徹な姿勢だと思います。
だからこそ、すずさんの時代を生き、生き残った人たちの話を聞き、普通の人々の思い、それは多分に主観が入っているかもしれないが、、当時呉で起きた大きなことや些細なことを長い時間をかけて調べ、緻密に構成しリアリティのあるパーツとして映画に落とし込む。そしてあとは、今を生きる者たち(のん氏や監督自身を含めて)が考えることなんだよと提示して見せた。
すずさん(架空の人物)は数えで今年100歳になる。彼女が生きた時間は87万時間に及ぶという。でも映画が描いた時間は作中では11年、映画として切り抜かれたのは2時間だけ。その切り取られた2時間のフレーム越しに見える世界をどう感じるか、問われているのだと思う。
自分は昭和43年生まれだが、それはまだ終戦から23年しか経ってない時代、何か不思議な感じがするが、かの時代と地続きの未来に生きていると8月になるたび思いを馳せる。
この映画は今世紀のベストワンです。

hal
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