劇場公開日 2025年8月1日

「「個人的な体験」としての戦争」この世界の片隅に あんちゃんさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0 「個人的な体験」としての戦争

2025年8月1日
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鑑賞方法:映画館

大正14年生まれという設定のすずさんは今年100歳になる。そして終戦80年。やはりキチンと観ておくべきと思ったので原作漫画も読んだ上で本日、映画館で作品を観た。
まず思い出したのは、昭和4年生まれの父と、昭和6年生まれの母。どちらも既に亡くなったが、すずさんの少し下の世代となる。登場人物ではすずさんの妹のすみさんと同じくらいか。
父は海軍兵学校に進学していた。母は大阪で空襲に遭って家を焼かれた。ともに戦争の記憶は濃厚に持っていただろうがあまり子どもたちにそれを語ることはなかった。でも家の書棚には普通に「きけわだつみのこえ」とかがあって戦争はごく間近に感じ取ることができた。ちなみに原作者のこうの史代さんは昭和43年生まれ。34年生まれの私のほぼ10年年下となる。おそらくはこのあたりまでがごく普通に家庭に戦争の記憶が持ち込まれていた世代なのだろう。こうのさんのお母様は呉の出身だったそうだから、この作品には何らかの影響は与えているものと思われる。
戦争に限らず、さまざまな記憶は親から子に伝承される。それはいわゆる「語り部」という形ではなくても、日常会話、ふとしたしぐさやクセ、好き嫌いの感情、家に置かれた物、などから伝わる個人的な体験である。そうして残念ながら世代が隔てられれば伝わらなくなる。80年もたてば戦争は親の体験、祖父母の体験ですらなく、曾祖父母の体験であったりする。何も知らなくても当たり前であり、そして個人的体験としての記憶がなければ、戦争へのイメージは抽象的な理屈による表層的理解と結びつく。それが右であっても左であっても。
戦争を知らない、伝えられていない世代のつくる本作品は、原作をリスペクトし綿密に取材も行ってきちんとした映画化がされていると思う。でも、周平とすずの夫婦の関係性は原作にもましてあの時代にはあり得ないほど現代的だと思うし、全共闘世代の楽曲である「悲しくてやりきれない」が使われているところなども違和感は感じる。それでもすずさんという人の個人的な体験を通して時代、戦争を捉えていこう、その記憶を共有化しようとする試みは高く評価できる。
最後に、私はあまり映画では泣かないのだが、エンドクレジットのイラストで涙がとまらなくなってしまった。すずさんが広島の焼け跡で拾った戦災孤児に晴美のスカートを履かせてやるのだが丈が足りない。継ぎ足しているのはあれはすみさんが持ってきてくれた純綿の布地ですよね。

あんちゃん
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