劇場公開日 2025年8月1日

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「加害も被害も丸ごと生活の中で描く」この世界の片隅に 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0加害も被害も丸ごと生活の中で描く

2025年6月30日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

何年かぶりに改めて見直してみた。絵の力も声の芝居の力も非常に高くて、やっぱりすごい。近年屈指のアニメーション映画だなあと改めて感じた。
その上で、公開当時と異なる感慨も持つ。何度も見ると別のものが見えてくるのは優れた作品の証拠だ。
おっとりしたすずさんは、単純な無垢な市民で戦争の犠牲者だったのか。描写の端々に、無関心や流されてしまうことの加害性みたいなものもこの映画には刻印されているような気がしてならなかった。大日本婦人会のタスキもそうだが、どこかで体制に組み込まれている自分を「仕方ない」と思っていたかもしれない。
右手を失って以降のすずさんの鬼気迫る敵愾心のあり方は、やり場の怒りの矛先として戦争にはけ口を求めるような、そんな強さも感じられる。しかし、平均的な人間はそんなものかもしれない。終戦時にすずさんが長く悔し涙はかなり複合的な感情なのだと思う。負けて悔しい、自分がこんなことになすすべなく流されて悔しい、などなど。。。
これは単純に戦争の被害を描くということではなく、加害の心象も含めて日常を生きる人々の生活を克明に描写した作品なのだなと思った。

杉本穂高
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