「戦争とは普通を壊すもの」この世界の片隅に kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
戦争とは普通を壊すもの
戦争当時の結婚。北條周作はすずのことを知っていたが、すずは相手のことをまったく知らずに結婚。恋愛でも見合い結婚でもない、こうした風習があったりもしたことは、逆のパターン(押しかけ女房風の)も含めて親の世代から聞いたことがある。それでも貰ってくれたことや、この男性、小さな幸せを見つけるためにこの家族と生きていこうとする姿に昭和を感じた。ボーっとしながらでも健気に生きてゆく姿がみずみずしさをも放ってくる。
平凡、普通、ちょっとおっちょこちょいのすず。戦争中であっても市井の人々の生活はしっかいと根付いていること。「たけやりで」などという言葉も使われるものの、配給に毎日通い、ごはんに味付けし、絵を描き、自然を愛することができるからこそ小さな家庭がある。呉という軍港ならではの特異性もあるにはあるが、多分日本中にすずさんはいたはずだ。
広島の原爆がメインになるかと思っていたけど、呉市は空襲がひどかった都市。毎夜空襲警報が鳴り響くシークエンスは耐えられないほど胸が痛くなった。日々の生活も食料事情が悪化し、今日も配給なし・・・といった状況が続く中、雑草までをもレシピに取り入れる姿も、飽食の時代にあっては想像もつかないエピソードだ。
義姉径子さんの娘晴美の存在も大きく、すずの心の安寧も彼女に見出したのかもしれません。また、普通に危険な関係になりそうな水原哲の存在もあり、揺れる乙女心も絶妙に描いてありました。
柔らかい水彩画タッチの映像は、観客にも心を穏やかにしてくれるが、不発爆弾が時限爆弾であり、その爆発によって姪の晴美とすずの右手を失うことに。暗転した背景に線香花火のような映像がすずの心を映し出し、悲しさを訴えてくる。広島に投下された原爆はむしろ呉から見たイメージでしかなかった。妹のすみはどうなったんだとドキドキしながら、エンディングを迎えるが、彼女の腕の斑点を見る限り、原爆症にかかってることは間違いないのだろう。それでも幼い頃に聞かせた怪物の話を思い出し、前向きな生き方を取る姉妹。そう、どこまでも前向きになれるんだと、勇気をもくれる。
こうの史代さんの作品としては『夕凪の街 桜の国』(2007)が好きだったので、原作も購入してしまったし、田中麗奈も好きになってしまいました。自分だけが生き残ってしまったことの苦しさも夕凪以降に色んな映画で描かれてましたが、戦後70年も過ぎると、そうした後悔の念が現れるのもしょうがないことだと思います。未だに辛さを伝えられない方も高齢になりつつありますが、戦争で亡くなった方も尊んで、未来のために伝承していくことも大切ですよね。
この真面目なレビュー、好感です。自分が感じたものと似たものを感じます。
戦争は日常と境い目なく繋がっていて、平凡でそれなりに幸せな毎日の延長で、片腕が吹き飛ぶのだという疑似体験には、「野火」と同じくらいの衝撃を、静かに受けていました。