「こんな雑な脚本でいいの?」この世界の片隅に flying frogさんの映画レビュー(感想・評価)
こんな雑な脚本でいいの?
最初は「こんな雑な編集でいいの?」というタイトルだったのだが、「編集が雑というのは違う」という指摘を受け、それもそうかと思ったので書き直し。
この映画が好評で超ロングランになっていたのは知っていて、いつか見ようとは思っていたところ、連続ドラマが始まりそれがとてもとても良かったので、たまらず原作を購入。
平均して月に15冊前後の小説を読む自分が、原作コミックを購入して以来、他の小説がまったく手に着かなくなるほど原作にハマった。
その余勢を駆ってレンタルで本作を見たのだが…
あれ?こんなの?
同じくドラマと原作にどっぷりハマっている妻は途中で寝てしまうし、自分も首を傾げながら見終わった。
まずエピソードの取捨選択がおかしいのではないか?
特にリン絡みのエピソードはほぼごっそり、最初に出会うエピソード以外は全面的にカットされている。
リンの話はすずの内面、そしてすずと周作の夫婦の関係に密接に絡むので、これを省略したら話が成立しないじゃないか…とは思うのだけど、まあどこを取捨選択するかは製作者の腕の見せ所でもあるので、カットしたこと自体に文句を言うつもりはない。
が、カットしたくせに後にすずが独白で「リンさん」と語りかけるシーンがある。
「居場所」についてリンに問いかけるのだが、そのリンのセリフは回想で唐突に出てくるのみ。
大空襲の後、リンが周作にリンの安否確認を頼むシーンがある。
そしてその後、リン絡みの話は放置(笑)
…なんなのこれ?
つまり一言で言うと「ほれ、やっぱりリンはカットできなかったんじゃん」なのだが、これはあたかもリン絡みのシーンを撮影していたのだが、後に編集でカットした時に対応するシーンの方はそのまま放置して完成させちゃった、という体に見えてしまう。
それが最初のタイトル「雑な編集」に繋がったわけだが…
「雑な脚本」が正しい表現なんだろうな。
シナリオという点では他にも気になるところはいくつかある。
終戦の玉音放送を聞いた後のすずの慟哭だが、あのセリフをあのように改変した意図が分からない。
あのセリフでは、単に食料自給率が低いから負けた、としか聞こえない。
原作どおり太極旗が掲げられるシーンを採ったということは、植民地支配のことを意味していたと思われるのだけど、植民地に食糧を供出させていたから暴力に屈しなければならない、という理屈は飛躍が過ぎて意味不明。
原作どおりの意味のことをすずに言わせたかったのなら、原作のセリフに勝るセリフはなかった。
解釈の違い、政治的意図、理由は何でも良いが、すずの慟哭に違う意味を持たせたかったのなら、太極旗は出すべきではなかった。
8/6の朝の径子との会話も、径子の途中のセリフをばっさりカットしたおかげで、セリフのテキストだけでは径子がすずに「とっとと広島に帰れ」と言っているかのようなセリフになってしまっている。
あの径子の一連のセリフは、すべて次のセリフが前のセリフを受けて繋がっているので、途中を省略したら意味合いやニュアンスが大きく変わってしまう。
ドラマでは一部のセリフの順番を入れ替えていたが、これでもニュアンスがかなり変わって聞こえた。
それでもドラマの方は「径子にはっきりとすずを引き留めさせたい」という意図が分かるので全然良いのだが…
声優の演技でカバーしていたが、あの猫なで声は径子のイメージとかなり違う。
同じことは終盤、終戦後にすずが近所の主婦と「記憶」について語り合うシーンにも言える。
そこも最後の「晴美を笑って思い出す」だけを残してその前のセリフを省略してしまうと、すずがもう早々と戦災経験を過去のものにしてしまったような印象を受けてしまう。
当初は小規模上映だったので、どうせ原作のファンしか見に来ないだろうから、リンのこともセリフの省略も、「あとは観客が脳内補完してね」ってつもりだったのだろうか。
原作をノーカットでやる尺はないのは分かるが、取捨選択が必要なのは分かるが、リンの例のように、1本の映画作品というより原作の歯抜けにしか見えないなぁ。
もし良かったらソフトを買おうと思っていたが、これは買わない。レンタルで見ておいて良かった。
近く完全版?が公開されるそうだが、これも多分見に行かない。
のんの声はとても良かったし、無神経なセリフの省略も脳内補完すれば楽しめるので、完全版のソフトはもしかしたら買うかもしれないが、その前にレンタルで見てもう一度判断することにしよう。
ハマっているのは原作で、ドラマは入り口という感じですかね。
編集が雑、というのは確かに適切な表現ではありませんでした。
例えばリン絡みのエピソードだと、撮影済みのシーンがあるのに尺の関係か大幅にカットした。それは良いのですが(まあ良くはないけど笑)、関係するシーンはそのまま何の処置もしなかったため、すずの回想シーンで突然出てくるリンのセリフがあったり、すずが周作にリンの安否確認を頼むシーンがそのまま残ったり(しかもその後は放置)という、あたかも「チョー雑な編集をした」結果のような見え方がしたものですから。
「シナリオが雑」と言えば良かったですね。