「人はどんな時でも逞しく生きていける」この世界の片隅に しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
人はどんな時でも逞しく生きていける
通常スクリーンで鑑賞。
原作マンガは未読。
太平洋戦争中、呉に嫁いだ主人公、すずさんの日常を通し、普段は気づいていないけれど、いつもそばにあるかけがえの無い大切なものを、繊細な優しいタッチで描いており、戦争を題材にしているのにも関わらず、悲しい出来事は起こるものの、最後には心が暖かくなっているような作品でした。
戦局の悪化に伴って食糧配給もままならなくなる中、工夫して朝昼晩の食事を拵えたり、暑くても寒くても畑で野菜を育てたりと日々の家事をこなしながら、すずさんは男手が無くなった北條家を持ち前の大らかさで懸命に守っていました。
ですが、ささやかな日常に空襲警報が鳴り響き、爆撃によって見慣れた景色が失われていきました。戦争がもたらす数々の理不尽によって大切なものを踏みにじられ、奪われてしまいましたが、それでも生きていこうとする姿に感動しました。
殺伐とした世情でも朗らかさを失わなかったすずさん。生来の性格なのかもしれませんが、「笑顔を無くしてしまったら終わりだよ」と教えてくれているような気がしました。
普段は当たり前のようにそこにあって、ついつい見過ごしがちになってしまいますが、私たちが営んでいる暮らしや日常こそがかけがえの無い宝物であり、それを必死に守っていくことが、私たちの生きていく意味であるように感じました。
それが簡単に軽んじられたり蹴散らされてしまうことにこそ怒り、涙し、それを打破するための強さを学ばないといけないのかもしれません。今のような社会だからこそ、すずさんのような生き方が求められているのかもなと思いました。
どんな困難な状況にあっても、どうにもならなさに悔し涙を流しても、逞しく生きていくことが出来るのが人間であり、その素晴らしさを高らかと歌い上げた人間賛歌の名作だなと感じました。ずっと大切に観続けていきたい。
[余談]
観ていてほんわかとした気持ちにさせられるすずさんのキャラクターを、声優初挑戦ののんが、初めてとは思えない演技で表現しているなと思いました。女優として映画などに出にくい状況となっているのが本当に残念でなりません。
[追記(2019/08/03)]
私の通勤路には機銃掃射の痕のある塀が残されており、それを見る度に当時を生きていた市井の人々の暮らしに想いを馳せてしまいます。空から爆弾や銃弾の降り注ぐことが日常で、生きるか死ぬかと云う状況に震えながら過ごす。なんと恐ろしくて、理不尽な日々なのだろうか。
7年前に亡くなった祖父からは戦争体験を何度も聴かされました。海軍の水中測敵兵だったと云う祖父は、終戦間近の頃海軍基地での演習中に空襲に遭い、命からがら爆発と炎の中を逃げ回ったそうです。炎に巻かれ右腕が千切れたまま走っている同僚を目撃したと話していました。
[以降の鑑賞記録]
2018/07/22:Blu-ray
2019/08/03:NHK総合
※修正(2024/04/19)
かいりさん、コメントありがとうございます。
「あまちゃん」を観たときから上手いなと感じていましたが、本作での声の演技の素晴らしさでこれは天性の才能なんだなと思い知らされました(笑)
すずさんの存在感が立ち上がって来るようでした。連ドラ版ものんに演じて欲しかったですねぇ…。
私は演技したことなどないのですが、声の演技って表情とか仕草とかない分、上手い俳優さんがやっても下手に聞こえることもあると思うのですが、
この映画ののんさんは素晴らしかったですね。語尾で息が抜ける感じだったり、表情豊かな声の演技がすごいなと思いました。